楽器の街としてミュージシャンに愛されている東京都御茶ノ水に多目的スペース『RITTOR BASE』がオープンしました。『RITTOR BASE』は楽器関連の雑誌や教則本、楽譜を40年の長きにわたり、多数手掛ける株式会社リットーミュージックがプロデュースするホールです。
特筆すべきはレコーディング、コンサートから配信まで対応可能な最新鋭の設備と細部までこだわりぬいた内装など、音質の良さへのこだわりです。
今回、『RITTOR BASE』には設備用電源モジュール『TASCAM AV-P3040』やマイクケーブル『KLOTZ(クロッツ) MC5000』などを導入いただきました。『RITTOR BASE』誕生の秘密と、『TASCAM AV-P3040』や『KLOTZ』ケーブルを導入いただいた理由をディレクターの國崎 晋さんにお伺いいたしました。
國崎さんといえば長きにわたってサウンド&レコーディング・マガジンの編集に携わってこられ、特にプロオーディオ分野の情報発信において貢献なされた方だと思います。簡単に國崎さんの経歴について教えてください。
國崎さん(以下敬称略):2社ほど出版関連の会社に携わったのち1990年からサウンド&レコーディング・マガジンの編集に携わりました。2018年の3月までは編集の現場におりましたが、以降は RITTOR BASE の立ち上げに関わっています。
ちなみに僕の経歴の詳細はミュージックマンのインタビューに全部書いてありますので、ぜひ読んでください(笑)
https://www.musicman.co.jp/interview/19776
https://www.musicman.co.jp/interview/19778
國崎さんがリットーミュージックに入社された1990年から今日に至るまでは音やレコーディングに関することが著しく変わった時期でもありますが、まさにその移ろいを中心で見てこられた方ですね。一番関心がある事なのですがなぜ RITTOR BASE を作られたんですか。
國崎:実はこうしたスペースを作りたいという事は15年前ぐらいから会社に提案していました。これからはリアルな場所がないといけないと。
リットーミュージックは出版社ですけど、それ以上にメディア企業であるという自覚があるんです。メディアって何か言うと『何かを伝える』仕事じゃないですか。昔は紙というテクノロジーしかなかったので、紙媒体で伝えることで、メディアとして機能していましたが、インターネットなど紙以外の媒体も出てきましたよね。
勿論それはすぐに取り組んで、Webもやってる、電子書籍もやってる、その中で足りないのは何だろうって考えた時にそれはリアルな場所だったんですよ。メディアとしての「リアルな場所が足りてないね』って話を社内でもしていて、最初はライブハウスをつくろうとしたんです。
真剣にライブハウスを作ろうと、事業計画で毎年提案していたのですが、なかなか通らずにいたので一旦は棚上げしたんです。
それから数年たって、ネットストリーミングの時代になったこともあり、発想を変えて、「放送用スタジオを作ろう」という企画に変えてみたんです。
キャパは少なくていい。でも最高の音質で、最高の映像が撮れる場所を作ればいいんじゃないかと。それはニコニコとかYouTubeとかいろんなムーブメントがあって、いいものが撮れる場所が必要なんじゃないかと。それで企画を出したら、奇しくもその時の副社長、現社長の松本(大輔)がほぼ一緒の企画を考えていたんです。ちなみに松本はカフェを作りたがっていたんですが、その企画も通ってなくて。それが同じ年に二人とも放送スタジオを作る企画を出したんです(笑)
去年松本が副社長から社長に就任したことにより「國崎さん、この企画はやりましょう。予算も凍結しません。」と後押しをしてくれて。事業計画でもその需要は確実にあるという事で、企画が通り RITTOR BASE はスタートしました。
RITTOR BASE はどういう場所なのでしょうか?
國崎:楽器演奏の楽しさを伝える場所……楽器の演奏のプロの人は本当にすごいんだよということを伝える場所にしたいです。配信ができるスタジオというのが根底にありますが、プロが出す音は本当にいいんだということが実感できる場所でしょうか。また上手くなくても、いい音を出すことは楽しいことなんだということを実感できる場所にしたいと考えています。ですからまず「いい音」がありきです。
東京ではライブハウスやカフェはかなりの数がありますが、いい音と映像が同時に収録できるスタジオはなかなかないですよね。この建物を RITTOR BASE に選んだ理由を教えてください。
國崎:賃貸物件で探していたんですが、このビルの地下は元々小規模の礼拝堂だったんですね。このお茶の水クリスチャンセンターというビルは特定の宗派ではなくキリスト教の様々な団体を応援するということで、ちなみに、弊社はキリスト教とは全く関係ないんですが(笑)、8階にはチャペルがあったり、他にもいろんな施設があるのですが、この地下スペースはそんなに大きくない集会などで使われていたらしいです。その後は貸し会議室とか貸しスタジオ的にゴスペルの人達や聖歌隊の人達の練習場所として提供していたらしい。つまりはかなり音響的に考えられた物件だったんですね。
賃貸物件ですから自分たちの思い通りにならないこともありますが、その中で見つけたこの場所は元々小礼拝堂という事もあって様々な工夫が凝らしてありました。
この部屋の構造は、実は平行ではなくて台形になっています。天井もだんだんと上がっていくようになっていて、ステージ側から見るとやや放射状に広がっているホールのような構造をしています。この調整卓側の木の壁や石の壁も実は特に手を加えなくて、元々のままなんですけど、木材の向きが音の直接反射を防ぐようになっていたり、グラスウールもつめられたりと防音もしっかりしてるんですね。
なるほど。すでに入居される前から、ある程度音に関して大きな工事が不要な物件だったんですね。しかし RITTOR BASE ならではのサウンドシステムの構築もあるかと思います。
國崎:スタジオの特徴としては柱状拡散体がありますね。トータルでプランニングする中で天井にも柱状拡散体を設置して音のバランスを取れるようにしました。
初めてここにお邪魔した際に、フロアが1面ローズウッドで敷き詰められていたのに感動しました。イベントスペースという事を考えればカーペットという方法もあったかと思いますが、それだと音がデッドすぎますよね。
國崎:床は何種類かご提案を頂いて、一番いいのはローズウッドですよと。やっぱり楽器材に使われることもあって、響きが全然違うんですよ。でも高いんですね。今回は社長直轄のプロジェクトという事もあって、「いやあ、床はローズウッドがいいって言われたんですが、高いっすよね・・・」と伝えたんですが、
「何言ってるんですか。いい音にするんですから、いっときましょうよ」
「マジすか!!」
みたいな (一同爆笑)
という事で、社長即決で (笑)
ローズウッドは響くんだけど楽器がいい音で鳴る床で、嫌な響きにはならない。ここを使ったエンジニアが「ここの音がいいのは、床がいいからだ。」と言ってくれました。そのエンジニアが自身のスタジオを改装するのにローズウッドを検討したそうですが「高くてあきらめたわ・・・」と (笑)
でもそれくらいローズウッドはいい床材なんですね。
音にこだわった RITTOR BASE には様々な機器が設置されています。その中で電源モジュールはTASCAM AV-P3040を導入いただいていますが、きっかけはなんでしょうか。
國崎:電源って色々と奥が深いので、どうしようかなと。すごくお金をかけることもできるけど、ここは基本に立ち返った方がいいかなと思って。いくらやったとしてもやっぱりビルじゃないですか。
ビル内の配電に手を加えるのはちょっと無理かなと思った時に、それならビルの配電盤から直接引っ張ってこれるものはないかなと思った時に、ちょうど新製品案内でAV-P3040がきて、これだと (笑)。
割とこのビル自体もそんなに電源事情は悪くないみたいで、壁コンセントは雑電なんですけど、取材内容によってはここにギターアンプとかをつないで試奏することがあって、それでも、「全然ノイズ出ないよ」と言われるんで、トータルで割とよいビルかなと思ってます。なおかつ主電源もいい形で来てますし。ギターアンプを使う場合もAV-P3040からBELDENの電源タップを経由して使ってもらうことで「音がいいよ」と言うことでいろんな方に使ってもらっていますね。
タップとかコンセントなしで直接電源を引っ張ってこれるのも大きかったですが、もうひとつは、ここに自分が常駐しているわけではなく、いろんな人が RITTOR BASE を使うので、いちいち電源の入れ方の順番とかをレクチャーしたりとかマニュアルを書くのはめんどくさいなと。電源を入れるだけでちゃんとリレーでオン、オフができますよというシステムにしたいなと思っていたので、AV-P3040はそういう機能が付いていて配電盤直結にも対応していたので「これは買うしかない」と(笑)。
本当に助かってます。
運用上は電源を入れるだけだと思うんですが、いかがですか。
國崎:めちゃくちゃ楽です。
國崎さんから見て電源の重要性についてはどうお考えですか。
國崎:リジェネするやつとか、波形レベルでつくり直すものとか色々あるじゃないですか。いろいろ考えたんですよ。無停電電源も入れつつリジェネしたもの大元に持ってきてとか。ただ、どこまでやるかでキリが無い部分もありますし。
AV-P3040は設備用途なので配電盤から直接電源を引けるようになっています。運用面と音質面でスタジオユースでもご使用頂けるのであれば、こういった電源を望むお客様にも訴求したいと考えています。
國崎:ほんとに問題ないです。スタジオと設備ってなんとなく用語は分かれていますけど、RITTOR BASE はどっち?って言われると、設備でもあるしスタジオでもあり中間的な施設だと思っています。配電から直結できるっていうのは、中間でなにか左右するポイントが減るということなんで、気持ちがいいです。
これが一回壁コンから取って、そこのコンセントのプレートとかはどうするんですか、そっからの電源ケーブルはどうするんですか、そこからのインレット、アウトレットはどうするんですかみたいな。キリがないじゃないですか。
弊社でももちろん、そうした事は雑誌で取り上げていますけど、少しシンプルにして「配電から直です」「普通のちゃんとした電源ケーブルです」「設備電源のケーブルでやってます」「電源屋さんにちゃんとやってもらいました」これでいいでしょうと。ある種の割り切りはありますが、音が悪くならないように、ちゃんと整えていますと。
勿論117Vや220Vを作るとなるとまた別の話になりますが、100Vの環境はきちんと整えて、117Vが必要な場合はトランスを持ってきてもらえばいいのかなと。
今回 RITTOR BASE ではKLOTZのケーブルを全面的に導入頂きました。ケーブルは本当にいろんなブランドがありますが、KLOTZを導入頂いたきっかけはなんでしょうか。
國崎:スタジオを作り始めた時に色々悩んで。いわゆるスタジオの定番と言われているケーブルにしようかとも思ったんです。そんなとき昨年、サウンド&レコーディング・マガジンの記事でKLOTZを取り上げた時に取材したエンジニアやミュージシャンが一様に「KLOTZはよい」と言っていて。別に派手なわけではなくて、「丁度いい感じ」というのが共通したコメントで。情報量は多くて、いわゆるオーディオ寄りでもないし、かといってスタジオ的過ぎるわけでもないし。後は強度ですよね。耐久性も重要なことですし、大量に導入することになるからコストも重要ですよね。と考えると一番バランスがいいのかなと。
マスタリングエンジニアの森崎(雅人)さんが凄く気にいってらっしゃったのも僕にとって大きかったかもしれないですね。
國崎:実際KLOTZを導入してみて、あらためて情報量の多いケーブルだと思いました。ながらくハイレゾの制作をやっていたので、そこの時代に対応できているケーブルなんだなって。
KLOTZのケーブルを使っていることが RITTOR BASE の特長にもなるのかなと。あと、アナログだけでなくデジタルのケーブが用意されているのも魅力でした。RITTOR BASE のPAはDanteでデジタルのネットワークを組んでいるのですが、そのケーブルもまとめてお願いできるのもメリットでした。メインコンソールはALLEN&HEATHなんですけど、以前リンクケーブルとしてKLOTZを推奨してたんですね。そういう信頼があるんだ、というのは後押しになって、じゃあKLOTZでデジタルもアナログも揃えちゃおうということになりました。
メインコンソールの入力のほか、メインスピーカーやサテライトスピーカーの接続もすべてKLOTZにしました……まさか自分たちでこんなに配線するとは思わなかったですが (笑)
御茶ノ水 RITTOR BASE では、TASCAM MODEL24体験会やSERIES一人多重録音会などのイベントで利用しましたが、いずれのイベントもドラムを含むバンド編成の音楽も非常にクリアなサウンドで、また音楽的に心地よい響きであり、レコーディングにおいてはEQやリバーブが無くても声や楽器の鳴りを音楽的に届けることができる屈指のスペースという印象を持ちました。
メーカーの発表会はもとより映画の試写会やインターネットライブ配信など多岐にわたるイベントで活用されています。
単なるイベントスペースではなく国内屈指の音の良さと多種多様な用途に対応した RITTOR BASE。
日本におけるミュージックカルチャーの新たな拠点 (BASE) になることでしょう。
リンク :
リットーミュージック
サウンド&レコーディング・マガジン
2019年9月12日にRITTOR BASEで開催:SERIES一人多重録音実演会