tofubeats x TASCAMリニアPCMレコーダー「DR-44WL」
『FANTASY CLUB』『HARD-OFF BEATS』『LOST DECADE』の現場から
2017年5月24日にtofubeatsがリリースしたメジャー3枚目のアルバム『FANTASY CLUB』は車のドアを閉める音、汽笛、教会の鐘、そして何処かに立ち去るような足音で締めくくられる。それはアルバムを聞き終えたtofubeatsもしくはリスナーが小一時間の『FANTASY CLUB』から現実に戻るような、「終わりと始まりの予感」をフィールドレコーディングによってtofubeatsは演出している。アルバムを制作していたtofubeatsは、TASCAMのリニアPCMレコーダー「DR-44WL」を持って地元神戸の山や街に繰り出し、フィールドレコーディングを行った。
さらにtofubeatsが自ら企画・監督・編集を行う動画シリーズ『HARD-OFF BEATS』では、tofubeatsは出演者たちの解説音声をこのレコーダーを使って録音した。またMaltine Recordsのメンバーたちと行っているクラブイベント『LOST DECADE』のアーカイブ化にも「DR-44WL」を使用している。
今回、tofubeatsの制作活動に欠かせないと言ってもいいTASCAMのリニアPCMレコーダー「DR-44WL」をどのように制作に活用しているのか、そしてtofubeatsにとって録音やアーカイブ化の意味を持つのかを聞いた。
取材協力: ワーナーミュージック・ジャパン
取材・構成・写真: 横山 純
tofubeatsさんは現在様々な現場でリニアPCMレコーダー「DR-44WL」を使用していると思うのですが、最初に現場で使用し始めた時の感想を教えてください。
tofubeats:最初にDR-44WLを使った時には、ライブ会場のミキサーから出るライン音源とエアー(会場のスピーカーから出る音や観客の声など)を録れるようになって、ありがたいなと思ったんですよ。それまで他社製品を使用していたのですが、同時録音するにはスペックが足りなかったんです。その時にこのXLR入力と内蔵マイクを同時に録音できるレコーダーで、しかもクオリティの高い音で録れるというのがうれしかったです。
他社製品だとクラブの低音の振動でレコーダーが共振してしまったりとか、そういうことがあるのでいいレコーダーに替えたいと思ってたんですよ。電池蓋がなくなってしまったりとかしていたので。(笑)
現場での使い心地はどうですか?
tofubeats:クラブとかでケースにポンと置いておいて、エアーを録りながら、ラインもバランス入力で気軽に録れるというのがよかったです。あとはレベルの設定も横にあるダイアルでパパッと調整できるし。地味にいいのは録音のチャンネルをボタンですぐに選べるところ。ラインの入力を選んだり、設定の画面に行ったりしなくてもボタン一つで選べるのが手軽でいいですね。
スタンドとかは使っていないんですが、クラブのPAブースにポンと置いておくだけで結構しっかり録れてしまうので重宝しています。それはいくつか現場で録音することで十分わかったので。ソフトリミッターも付いてるし、現場によっては使用することもあるのですが、基本的には録音が良いクオリティでパパッと録れればっていうところが大事ですから。
録音フォーマットなどのこだわりはありますか?
tofubeats:基本的にはCD音源のクオリティで録音しているのですが、アルバムの制作の時は48kHz、24bitで制作していたので、その時は録音のビットレートを上げましたね。基本的にはWAVの44.1kHz、16bitで録音しています。それでも十分なのですが、良い音質で録ればそれだけのメリットはありますね。
ライブやDJのイベントのアーカイブを録音し始めたきっかけを教えてください。
tofubeats:LOST DECADEを始めた早稲田sabacoのスタッフの方が毎回録音してくれていたんですよね。自分のプレイが残っているのはいい事ですし、またLOST DECADEの時のように自由にやっている録音を残すということは、そのようなプレイでのオファーを増やせるかもしれないってことなんですよね。例えば当時okadadaさんのプレイはあまりネットに残っていなかったんですよ。地方のプロモーターの方とかがokadadaさんをブッキングする時に、ほぼ噂だけでブッキングすることになるわけじゃないですか。クラブ経営している人が都会や他の地方に観に行くっていうのはできない訳ですし。その時に録音があるっていうのは意味があることだなと思って。こちらもプロとして参考の素材を提供するというのは、あながち間違っていないことかなと。
もう一つLOST DECADEの録音を残している理由として、未成年の人たちにDJというものをフル尺で観てもらいたいというのがあるんですよね。自分がクラブ行けなかった時のことを考えると、DJ MIXをフル尺で聴けるというのは貴重な経験になるんですよね。昔、自分が未成年の時にPeechboyさんが一晩で8時間プレイしていた音源をサイトに年一回アップしてたのを聴いていたんですよ。それが大きな経験となっているので。そして大人になったら行きたいなって思ってもらえればって思いますね。
DJプロモーションの一環として録音する以外にはどのように活用していますか?
tofubeats:そのようなプロモーションの道具という一面もありますが、もちろん自分自身の反省会用という意味もありますね。4年くらい前からGoProを導入しているのですが、それは客観的に自分のプレイを見るためですね。未成年の時、家で一人自分のプレイを録って見直してましたね。ちなみにターンテーブルを買う前にAcidというソフトで作ったDJ MIXも残しておいてありますし、「デモトラック2」から保存してますからね。データでのアーカイブは結構残しておく方ですから。
『HARD-OFF BEATS』シリーズでもこのレコーダーを使用されてるとか。
tofubeats:制作編の実況の録音はこちらのレコーダーでしました。解説用のマイク3本を別のミキサーに通して、3人の声をモノラルで1系統にまとめて録音していたんですよ。そしてもう一つはバックアップ用に同じまとめた3本のマイクの音声をモノラルでサブアウトから出力して録っていました。そうするとセキュアに録音ができるんですよね。そして同時にレコーダー付属のマイクで録っておけばよりセキュアになりますよね。
DR-44WLにはデュアルレベル録音機能という機能あるんです。自分が設定した入力レベルと同時に「-12デシベル」で同時録音してくれるという機能なんです。
tofubeats:最高の機能ですね…。結構入力レベルを突っ込んで録っておいても、もう一つファイルがあるってことですね。いいですね…。
基本的なことですが、録音だけするならこのレコーダーでするのが一番簡単なんですよね。パソコン立ち上げなくても録音できるし、ファンタム電源使えるのでコンデンサマイクも使えるし。『HARD-OFF BEATS』の撮影の現場ではこれが重宝しましたね。これが何台かあると助かりますね。カメラマイクだけではなく、こういうレコーダーがあれば自由度が大きくなりますね。なんか映像の現場の人みたいな感じになっていますが。(笑)
tofubeatsさんは他社製品も使用されたことがあると思うのですが、それらと比べて気に入っている点などありますか?
tofubeats:マイクに付いているプロテクターですね。裸で使えるけど安心できるというのが大事ですね。風防やウィンドジャマーを付けることができるんですけど、付けると雰囲気変わってしまったり、雑音が入ってしまったりするんですよね。だけど付けないでおくと何かにマイクが当たってしまうかもって、不安に思うし。そこでこのプロテクターがあると安心ですね。他社製品にはプロテクターがプラスチックで出来ているものもあるんですが、折れちゃったりするんですよね。DR-44WLは金属製なので安心ですね。
あと振動してもマイクと本体の間にクッション材が入っているので、変なビリビリ感がないんですよね。手持ちで使う時の感じが違う気がするんですよね。これは後で話そうと思ってたのですが、アルバム『FANTASY CLUB』の制作の際、車のフロントウィンドウに吸盤でレコーダーを吊って録音していたんですよ。その時も車の振動のノイズなんかが入らずに、キレイに録音できましたね。
新アルバム『FANTASY CLUB』の制作にもこのレコーダーを使用したということですが、どのように活用されたのですか?
tofubeats:"WHAT YOU GOT"の次に、"WYG(REPRISE)"という繰り返しの曲があるのですが、最後数十秒はスピーカーで出力した音をこのレコーダーで録音して素材にしているんですよ。部屋の反対側のキッチンにレコーダーを置いて、出来上がった曲を流して、レコーダーで録音したんです。それを編集してPCで作った音から、部屋でレコーダーで録音した音へクロスフェードしていっているんですよ。そうすると音圧がなくなっていくって感じになるんです。そうすると次の曲の頭の「バンッ」という音によりアタックが感じられるようになるんです。よくあるアイディアなんですけどね、ギターやドラム、DTMでもやっている人は結構いると思います。
他にはどのように使用しましたか?
tofubeats:車のフロントウィンドウに吸盤でレコーダーを吊って車内の音を録ったんですが、それは使用しなかったんです結局。使ったのは最後の曲"CHANT #2"のドアの音、汽笛、教会の鐘の音、足音ですね。外で録音をする時、周りに子供がいて不審者になりかねなかったので、レコーダーをトートバッグに入れて足音を録音したんです。その時トートバッグを右に持っていたので、やっぱりちょっと左から足音が聞こえる感じなんですよね。それを聴いて位相がちゃんとしているなって感じました。マイク優秀だなって。(笑) よく聴くとちょっと左やねんなぁ~。(笑)
ドアの音、汽笛、鐘の音、足音は全部別の場所やタイミングで録ったんですよ。色んな所に行って30分、1時間くらいレコーダーを放置して、自分はちょっと離れて。自分の音が入るのがいやなので。離れたところから盗まれないようにその荷物を見張って。(笑) 汽笛の音も神戸で録ったのですが、山の上から録りました。遠くから聞こえる汽笛ですね。あと教会の鐘は、家の近くで録音しました。神戸にも教会がたくさんあるので。
2008年頃からハンディレコーダーを作っているのですが、ハードとソフトウェアの面でお客様の声やフィードバックを頂いて、反映させています。以前のレコーダーは液晶ディスプレイのサイズが半分だったんですよ。DR-44WLでは視認性を向上させるために今までの倍にし、情報量と操作性をアップさせました。
tofubeats:ハードウェアの面で言うと、インプットレベルの調節のツマミが独立しているのがありがたいですね。小さいインターフェイスやモニターで全部の設定をしないといけなくなりがちですが、大きなツマミがついているのはありがたいですね。
レコーディングの際、一番大事になってくるのはインプットレベルじゃないですか。そして特にハンディレコーダーは様々な現場に対応しなくてはならないので、その観点からすぐ調整しやすいようにということでここに位置しています。
tofubeats:デザイン的にはトップに録音関係のボタンがすべて集約されていることと、トップからワンボタンでローカットなどの録音の設定を出来るのはうれしいですね。
ミュージシャン的には、音質の好みの問題もありますが付属のマイクでちゃんと録れるというのが一番気に入っているというか、違いを感じますね。とりあえず録れればよいというレベルだと選択肢もたくさんあるとおもいますが、ハンディレコーダーは現場で音をちゃんと録れるというのが一番大事ですからね。TASCAMさんはプロレベルの製品を出しているので、そのノウハウがこのようなレコーダーに反映されているんでしょうね。
あとはTASCAMさんと言えば、オートチューンでおなじみのボーカルプロセッサーの「TA-1VP」でお世話になっているんで。そろそろあと2台位必要ですね。(笑)
tofubeats 『FANTASY CLUB』
1. CHANT #1
2. SHOPPINGMALL (FOR FANTASY CLUB)
3. LONELY NIGHTS
4. CALLIN
5. OPEN YOUR HEART
6. FANTASY CLUB
7. STOP
8. WHAT YOU GOT
9. WYG(REPRISE)
10. THIS CITY
11. YUUKI
12. BABY
13. CHANT #2 (FOR FANTASY CLUB)
ワーナーミュージック・ジャパンより2017/5/24にリリース。