インタビュー・レビュー
【特別座談会】 ミキサーズラボのエンジニア3名が語る 「DA-3000」 のサウンドとDSDの可能性について

実際のミキシングで『DA-3000』を使用中であった、ミキサーズラボのAスタジオを会場として、ミキサーズラボ所属のエンジニア3名(三浦瑞生さん、小坂康太郎さん、加藤拓也さん)にご協力を頂き、『DA-3000』の音質や使い勝手について、座談会形式で感想、ご意見を頂きました。
協力:株式会社ミキサーズラボ

ティアック:
まずは三浦さんから『DA-3000』のファーストインプレッションをお聞かせ下さい。
三浦:
(以下敬称略)
普段ミキシングをする際、私はPrism Sound ADA-8XRというAD-DAコンバーターを使ってサウンドを一度外に出力し、それを再びProToolsのオーディオトラックに戻すことが多いのですが、『DA-3000』の音も聴き比べられるようにしてみました。まず、音の感想を率直に言わせてもらうと、すごく自然だなと思いましたね。マスターフェーダーの後の音を聴いたときの印象に物凄く近い。DSDによるフォーマットの違いというのもあるんでしょうけれど、やはりWAVで録っていると、どうしてもデジタルのカクカクした感じというのが耳についてしまうんですよね。それが、『DA-3000』のDSD 5.6MHzのハイサンプリングステレオ録音だと、特に声や生楽器の滑らかさというのがナチュラルに再現できているなと思いました。レンジもとても広く感じましたね。更に、上下にレンジが伸びているだけでなく、中域がしっかりあるんです。そのため、ボーカルが一歩前に出るような感覚があり、結構いいな、と思いました。
ティアック:
小坂さんはいかがでしたか?
小坂:
(以下敬称略)
私は『DA-3000』をミックスのマスターレコーダーとして使わせてもらったのと、ピアノの2チャンネルの録音でも使用しました。マスターレコーダーとして使ったときは、ProToolsの中にPCMのまま録るのと、『DA-3000』でDSDで録るという2つのパターンで試してみたのですが、ぱっと聞き比べた瞬間、DSDの方が聴感上大きく聞こえる気がしました。もちろんメーターの振りは同じだったんですけど、情報量の違いがそうさせているのかなって思いました。音色については変にクセがついたり色付けされたりしないまま、レンジ感がぐっと広がるので、そのクオリティの高さに驚きました。特にアコースティック楽器を録ったときにそれを感じましたね。以前からタスカムさんの製品は使わせてもらっていたのですが、クセのないナチュラルなサウンドというのは変わらず信頼できるなと思いました。
ティアック:
レコーダーを作るにあたって、原音忠実は、我々がもっともこだわっている部分でもあります。マスタリングエンジニアとして、加藤さんの感想はどうでしたか?
加藤:
(以下敬称略)
私はDSDがオーサリングできるDAWと『DA-3000』で、DSDファイルを同時に再生させて聴き比べてみました。DAWの方はシャープな印象があったのですが、『DA-3000』はすごくアナログな音というか。やはりナチュラルな印象を受けました。DAコンバーターという意味では、PCMファイルで聴き比べても派手な色づけがされた感じがしないというのは好印象ですね。マスタリングで使う場合、「最終段階の音を録る」となった時に、こちらの意図しないものに変わってしまうと困るんですね(笑)。まあ、それを見越して作るというのも1つの方法かもしれないですけど、そういう手間をかけずにコントロールできるのは嬉しいですね。 また、ファイナルミックスを『DA-3000』で録って、そのファイルを『DA-3000』で再生しマスタリングをするという風にすれば、PCベースのDAWよりもファイナルミックスの音をより良く再現できるのではないでしょうか。
ティアック:
実際に操作してみての、使い勝手はいかがでしたか?
小坂:
操作は本当に分かりやすいですね。マニュアル要らずというか。実際、ほとんどマニュアルは見なかったんですけど、それでも問題なく使えました。「きっと、ここのボタンを長押ししたら、こうなるんじゃないかな」って思ってやってみたことが、ちゃんとそうなったり(笑)。感覚的に操作できるのは嬉しいです。これはタスカムさんの製品全てがそういう印象ですよね。
加藤:
今回、USBワイヤレスキーボードをつなげて操作してみたんですけど、それがすごく良かったですね。カーソルキーを使ってメニューを操作できて、タイトル入力も簡単にできました。また、再生などの操作もDAWのようにできてとても快適でした。
ティアック:
Pro Toolsと同じアサインにしてあるので、感覚的に操作して頂けるのではないかと思います。
加藤
ジョグダイヤルだけで操作する機器の場合、我々エンジニアのように使い倒す現場だと、経年変化で効きが悪くなってしまう恐れがあり、操作がモタつくのはかなりのストレスになります。過去のタスカムさんの製品のワイヤードリモコンも好きでしたが、今回キーボードで操作できるようにしてもらえたことは、とても便利です。
ティアック:
『DA-3000』はDSDで録れることが大きな特長ですが、今後DSDの可能性に関してはどのようにお考えですか?
加藤:
ミキサーズラボでは音源管理もおこなっているのですが、過去にアナログレコーディングされたものをアーカイブしていくときに、あらゆる形のフォーマットに対して汎用性のある「オリジナルの代わりになるもの」をDSDで残しておくのはとても有効だと考えています。実際、マスタリングやリマスタリング作業時に、CDマスターとDSDでアーカイブデータを作るという取り組みが様々なスタジオでおこなわれているようですし。そこからPCMや、今後も出てくるであろう新しいフォーマットに変換するような流れになっていくのではないでしょうか。もちろん、「良い音で録る」とか、「SACD用のマスターを作る」といった目的もありますが、音源管理の観点から後世に残すアーカイブ用のフォーマットとしての可能性を強く感じています。
ティアック:
ところでPCMについてはいかがでしょう?
小坂:
DSDが良かったので、まだPCM DAコンバーターとしては使っていないんです。これから使ってみようと思っています。
三浦:
私もそうなんですよ。これはDSDで使うしかないでしょと思って(笑)。後で実際に聴き比べてみましょう。私はPro Toolsはちょっと色気がないなと思っていて、とにかくPrism Soundは質感がいいなと思っています。特にアコースティック楽器やボーカルで違いが出ます。ミックスのときにも使っていますね。
ティアック:
いろいろなDAコンバーターを使ったうえで、今のシステムになったんでしょうか?
三浦:
そうですね。私も、もともとは大きな卓でやっていました。でも、やっぱり完全再現という部分でDAWも使うようになったんです。ただジレンマだったのは、マスターフェーダーの後の音と録った後の音が違うということ。「デジタルなのに何でこんなに変わっちゃうの?」と思っていました。基本的には原音忠実というものだと思っていましたが、この差はEQやコンプで直る次元じゃないんですよね。そういった中でDAコンバーターをPrism Soundに換え、その中でもマスターフェーダーの後をデジタルでプリトラックに送るか、アナログで送るかも試行錯誤して、最終的にはアナログで送る方が音楽的だなと思ったんです。
ティアック:
DAして再度ADして録るというスタイルに落ち着いたんですね。
三浦:
そうですね。自分の中で許される変化の中に収まっているかなと思います。
ティアック:
そのシステムに『DA-3000』を入れて、DSDで録ってみたら良かったということでしょうか。
三浦:
そうです。SDカードに記録される前の音をインスルーで聴いてみても、ほとんど変わらなかったです。歌などは先ほども言いましたが、前に出る感じがして良かったです。そして、今度は録った後の音も聴いてみたんですが、これは少し印象が変わるんですね。許される変化の中には収まっているんですが、やっぱりメディアに入るとしょうがないのかなと。
ティアック:
DA-3000を使用された他のエンジニアさんにも聞いたことがあるのですが、CFとSDでも音が違うという声もあります。今後検証していきたいと思っています。今後、「もっとこうして欲しい」というような要望はありますか?
三浦:
そうですね、タスカムさんの「フラットな音づくり」の良さは残しつつも、その基本がしっかりしているが故の色を付けた音っていうのも聴いてみたいなという気持ちがあります。これは、マスタリングエンジニアとはおそらく考え方は違うのでしょうけれども、レコーディングエンジニアは、かつてアナログのテープレコーダーを各自好みの調整にして、良い意味での音の変化をイメージして使っていました。私的には、スチューダーのハーフインチのテレコと3M社の996のテープっていう組み合わせが大好きだったんです。そういうサウンドの「変化」をシミュレートするプリセットなんかがあったら、もっと楽しくなるんじゃないかなと。もしご興味を持って頂けたら開発に協力しますので(笑)、是非ご検討いただけたら嬉しいです。
ティアック:
それは面白いご提案ですね!ベースの部分はきちんと残しつつ、そうした試みができたらいいなと思います。具体的には部品の選び方や回路の作り方になってくると思いますが、スイッチひとつで色々切り替えられると面白いかもしれません。 本日はどうもありがとうございました。

この後、三浦さんにご提案頂いた実際制作に使用した音源での比較試聴会のあと、ミキサーズラボのエンジニアの方々とティアックのスタッフでさまざまな意見交換が行われました。実際の制作現場ならではの要望は、今後の製品開発に生かせる大変貴重な情報となりました。今後のTASCAM製品にご期待ください。

左上より(敬称略)
中村(ミキサーズラボ)、小泉(ティアック)、宮本(ティアック)、遠藤(ティアック)、成田(ティアック)、佐藤(ティアック)、
小坂(ミキサーズラボ)、三浦(ミキサーズラボ)、加藤(ミキサーズラボ)

プロフィール

三浦瑞生(Mizuo Miura)

ミキサーズ ラボ代表取締役(レコーディングエンジニア)。スキマスイッチ、福山雅治、藤井フミヤ、一青窈、アリス、今井美樹、Chara、鈴木雅之、TUBE、大黒摩季、尾崎亜美、小曽根真、加山雄三、宇崎竜童、キンモクセイ、杉山清貴、吉田拓郎、チェッカーズ、PE'Z 、Salena Jones など、多数の作品を手掛けている。また、日本プロ音楽録音賞、優秀賞といった受賞実績もある。

小坂康太郎(Kotaro Kosaka)

神奈川県出身のレコーディングエンジニア。専門学校卒業後、マルニスタジオにてエンジニアを始める。
その後WESTSIDE STUDIOを経て、現在はミキサーズラボが運営するレコーディングスタジオ「LABrecorders」のチーフエンジニアを務め、多数の作品を手掛けている。

加藤拓也(Takuya Kato)

京都府出身のマスタリングエンジニア。2004年より、ミキサーズラボが手掛ける様々な作品のマスタリング業務を手掛けている。

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