TASCAM Sonicview 16をスタジオに持ち込みフォーリー収録
Portacapture X8にてボートのパドリング音などをフィールド録音
劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』のフォーリー収録にTASCAM Sonicview 16が、フィールド録音にPortacapture X8が使用されました。
大ヒット公開中の劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』は実写映画化やテレビドラマ化もされた敷村良子の傑作小説を原作に、仲間とボートと出会い、一生懸命を見つける青春物語。
この映画で使用される音素材の収録として、フォーリー収録ではTASCAM Sonicview 16をスタジオ内に持ち込むというスタイルでの収録となりました。また、戸田公園ボートコースにて、水上でボートのパドリング音やオールの可動部の音、ボートのきしみ音などをフィールド録音する際にPortacapture X8が活躍しました。収録を担当したのはリレコーディングミキサーの鈴木氏とサウンドデザイナーの荒川氏のコンビです。
映画も無事完成を迎え、鈴木氏から以下のコメントをいただきました。
鈴木氏談)
TASCAM Sonicview 16とPortacapture X8で収録した音はミックス時に音楽やセリフにも負けない繊細かつ芯のある音で作品の内容にとてもマッチして、大変助かりました。
それぞれの収録の様子をレポートします。
収録は東京都世田谷区、国内最大規模のフォーリースタジオがある東宝スタジオ フォーリーステージにて行われました。
今回はスタジオ内にTASCAM Sonicview 16を持ち込むというスタイルで収録が行われました。
今回の収録システムについて伺いました。
鈴木氏、荒川氏談)
TASCAM Sonicview 16をスタジオに持ち込むスタイルをとった理由は、作業効率化による時間の短縮のためです。フォーリーステージに常設されているPro Toolsシステムを使用してしてもよいのですが、スタジオ、調整室と離れたブースにいるため、お互いマイクを使用してコミュニケーションをとらざるを得ず、時間やコミュニケーションにロスが生じていました。今回、コンパクトなサイズのTASCAM Sonicview 16をスタジオ内に設置し、お互い同じ空間で作業することで、集中して効率良く作業することができました。最終日は想定の4-5時間巻きで収録を終えることができました。
メイン収録にはNUENDOが使用されており、TASCAM Sonicview16のUSB オーディオインターフェース機能でNUENDOにダイレクトに接続し、収録とモニタリングが行われていました。またバックアップレコーダーとして32チャネルマルチトラックレコーダーカード IF-MTR32も使用されています。IF-MTR32は収録開始の時からその日の収録が終了するまで回しっぱなしです。
仮で出来上がったアニメ映像に合わせて、足音やボートを持ち上げる時の音などワンシーン毎、場合によってはワンシーン内でも足音とボートを動かす音など複数の素材を繰り返しマルチ収録し、必要な音素材の収録が効率良く進んでいきます。(余談ですが、駅前などの多くの人々が歩くシーンや乾杯のシーンではサウンドメイキングのお手伝いをさせていただきました。)
荒川氏談)
フォーリーでは私の場合、普段から一人でフロアにDAWとインターフェースを持ち込んで録音するのですが、収録し終わってからの音色調整の手間がありました。
今回、鈴木さんから良い卓があるという情報を聞き、鈴木さんのほうでEQなどの調整をしてもらいながら自分で直接DAWをオペレートして録音することにより、すごく効率よく収録することができました。
TASCAM SonicviewはNUENDOのインターフェースとして使え、EQのシーン切り替えなどもプリセットに入れられるので、アスファルトの靴のEQ、室内の靴のEQなど切り替えながら微調整していけるので非常に作業が早かったです。
音の方も繊細に収録でき、ヘッドアンプも優秀と感じました。
レベル監視としてVUメーターは必須とのこと。TASCAM Sonicview 16に装着されたタブレットシェルフAK-TB15はこのようにVUメーターなどを設置するのにも活躍します。
鈴木氏談)
操作性も良く、Home画面でバスアサイン先が見えるのも良いですね。またスタジオ内にミキサーを持ち込む場合、ファンノイズなどのノイズにも気を使います。TASCAM Sonicview 16はファンコントロール機能がついているのもありがたいです。今回は低めに設定することで収録音の影響の無いレベルまでに抑えることができました。
アニメーション映画なので環境音や足音をはじめ、全ての音を様々な道具を用いてサウンドメイキングしていく様子、その作業を手際良く進めていく収録風景は非常に興味深いものでした。
TASCAM Sonicview 16 製品ページ
https://tascam.jp/jp/product/sonicview_16/top
IF-MTR32 製品ページ
https://tascam.jp/jp/product/if-mtr32/top
フィールド録音は戸田公園のボートコースにて行われました。『がんばっていきまっしょい』は仲間と出会い、ボート競技に打ち込む高校生の青春を描いたアニメーション映画ですが、実物のボードでの音を使用するということで、水上でボートを漕いでいる音や実際にボートを運んでいる音などが収録されていました。
収録機材は手持ちのステレオショットガンで2チャンネルのみの録音とアンビエンス LRマイクとステレオショットガンの4チャンネルを録音する2台のPortacapture X8が使用されました。2チャンネル録音の方でオールの可動部など狙った箇所に近づけ、4チャンネル録音は位置を固定してアンビエンスを収録します。
鈴木氏談)
Portacapture X8は直感的で操作性がすごく良いですね。ソロモニタリングは非常に重要なのですが、メータータップですぐ切り替えできるのも便利でした。
ボートの可動部や水面、パドルの先を狙ってピンマイクなどの小型マイクを設置し実際に航行しながらの収録も行ったのですが、こちらの収録ではPortacapture X8の入力チャンネル数の多さとマイクプリの耐入力、解像度の良さに大変助けられました。
素材収録ということもあり収録中は周辺音にかなり気をつけていて、収録したいターゲット以外の音が入らないようタイミングが大事な状況でした。録音開始時には何の収録か説明をしてから、同じ音を繰り返し収録していました。可動部の同じ箇所でも、可動スピードや接触の強弱などボート経験者の意見も伺いながらかなりのバリエーションを収録していました。最初は最新型のカーボン素材のボートを使用していましたが、劇中舞台が高校ということもあり少し古めの木製のボートも使用するという徹底ぶり。音響は映画によりリアリティや世界観を持たせるために繊細で非常に重要であることを再認識しました。
Portacapture X8 製品ページ
https://tascam.jp/jp/product/portacapture_x8/top
ぜひ劇場に足を運んで作品と臨場感のある音をお楽しみください。
劇場アニメーション『がんばっていきまっしょい』公式サイト
https://sh-anime.shochiku.co.jp/ganbatte-anime/
株式会社SuZooki 鈴木修二
2008年株式会社東京テレビセンター入社、実写映画・アニメーション・TV番組・VPなどに録音部として参加。2018年より独立し、2021年 株式会社SuZookiを設立。
株式会社Async 荒川きよし
1996年日本放送協会入局、1998年より音響効果担当。ドキュメンタリーを中心にドラマ、バラエティなどの番組を担当。2018年3月に株式会社Asyncを設立