映画監督、映像制作プロデューサーとして多方面で活躍されている太田信吾さんの映画監督作品の収録現場などにてTASCAMの32ビットフロート録音対応6トラックポータブルレコーダー『Portacapture X6』をご使用いただきました。現場での使用感についてお伺いしました。
■使用機材
32ビットフロート録音 6トラックポータブルレコーダー『Portacapture X6』
どのような現場で使用されましたでしょうか。
太田信吾さん(以下敬称略) : 私が監督しているドキュメンタリー作品「秘境駅清掃人」、「沼影市民プール」での音声収録など、様々な現場で活用しています。また自宅でも、作品の制作プロセス、素材として必要なリモート取材やオンラインミーティングなどの録音の為に、PCと接続しオーディオインターフェースとして活用しています。
収録現場での運用方法について教えてください。
太田 : 現場では音声のみ別録りが必要な場面で使用しています。例えば、「秘境駅清掃人」では山間に生息する野鳥の鳴き声から電車が通過する際の踏切の音など、様々な音声素材を収集するフィールドレコーダーとして運用しました。「沼影市民プール」では、メインの収録はTASCAMのDSLR用レコーダー『DR-70D』を使い、別録りや置きマイクとしても活用しました。撮影班が別の場所で撮影している最中、市民プールに常設されている救護室にカメラとPortacapture X6を設置しておいて、利用者がいつ来ても良いように長回しで収録していました。
32ビットフロート録音※についてはいかがでしょうか。
太田 : 32ビットフロート録音は今回初めての体験なのですが、特に編集段では録音レベルがピークを越えたかなと思った音声も波形を見れば全く割れていないので、かなり驚きました。少人数の収録現場では、常にレベルを見ながらの撮影が出来ない場面も多いですし、長回しで音声を収録している時も、急にノイズが入るなどトラブルが付きまとうのが常ですが、編集で何とかなるという安心材料としても重宝しました。音割れしないとしても現場ではレベル調整は必ず行いますが、低めに設定しておいて後でレベルを持ち上げても、ノイズが乗るなどの劣化も無く綺麗に収録出来ているので、編集で出来る幅が増えたなと思います。
※32ビットフロート録音についての解説はこちら。
Portacapture X6に搭載されているアプリランチャーシステムについてはいかがでしょうか。
太田 : アプリは、「MUSIC」と「ASMR」以外は全て使用したと思います。鳥のさえずりなど狙って音を録る際は、「FIELD」を使用し、自然音と電車の音を同時に収録するなど、音のレンジが広い場面では「MANUAL」で個別にレベル調整しつつ収録しています。現場インタビューの際の録音メモとしてもワイヤレスマイクを接続しつつ「VOICE」を選択し録音しています。また、自宅でのリモート取材では「PODCAST」で双方のレベル調整を行ったり、USBミックスマイナス機能※でエコーを防いだりとミキサー的な使用感で操作できました。状況に合わせて幅広く活用できたと思います。
※USB通話音声の回り込みを防いで相手先にエコーが発生させない機能
タイムコード同期やリモートアプリ※は活用されましたでしょうか。
太田 : シンポジウムや議会のシーン撮影なども有り、決まった場面を長回しで収録する際は、ATOMOS UltraSync Blueを使用し、Portacapture X6とメインカメラをタイムコード同期させ収録していました。 収録現場では、常に状況が変化する為、設定が間に合わない場面もありましたが、状況に合わせて適材適所で使えると思います。リモートコントロールでは、置きマイクなどレコーダーを離れた場所に設置した場合、何度も気軽に見に行けない中、都度スマホアプリを介して設定を確認できたので頻度も多く使用しており、ありがたい機能ですね。
※Portacapture X6は、Bluetooth®アダプター『AK-BT1』を装着することでワイヤレスタイムコード同期や、スマホアプリを介したリモート操作が可能です。AK-BT1製品ページはこちら。
本体の使用感はいかがでしょうか。
太田 : 重量も程良いですし、タッチパネル方式も扱いやすく、また内蔵マイクの指向性をA-BからX-Y方式へとすぐに変えられるのは便利だと思いました。収録現場ではセッティングの変更などが急に発生するので、機材選定においては、取り回しやすくシンプルという点を重要視しています。Portacapture X6は現場で取り回しやすいですし、且つ自宅でもオーディオインターフェースとして使える点からも活用の幅が広がるレコーダーだと思います。
最後に映画「沼影市民プール」について、作品内容をお教えください。
太田 : 海がない埼玉で「埼玉県の海」として長年、親しまれた沼影市民プールが2023年夏の営業を持って閉鎖・解体されました。本作では閉鎖に対する地域の方々の反対運動から行政を巻き込んだ騒動にまで発展した経緯や模様と共に、このプール最後の夏の営業期間に様々な思いを持つ人々を描いたドキュメンタリー作品です。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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■今回、収録で機材導入をいただきました映画「沼影市民プール」が、「First Cut+ Summer Edition 2024」にて日本企画としては初となる「First Cut+ Works in Progress Award」を受賞しました。
詳細ページ: https://www.vipo.or.jp/news/41691/
プロフィール
太田信吾/Hydroblast(Shingo Ota/ Hydroblast)
日本/映画監督・俳優
1985年長野生まれ。早稲田大学文学部卒業。大学では哲学・物語論を専攻。
『卒業』がIFF2010優秀賞を受賞。初の長編ドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(13)がYIDFF2013をはじめ、世界12カ国で配給された。その他、監督・主演作に劇映画『解放区』(14)、近作にゆうばり国際ファンタスティック映画祭2022で優秀芸術賞を受賞した『現代版 城崎にて』など。演出を担当したテレビ番組『フードトラッカー峯岸みなみ』が全8話放送。チェルフィッチュ『三月の5日間』香港公演(10)で初舞台、俳優としても活動。出演作にKAATプロデュース『未練の幽霊と怪物』、PARCOプロデュース『クレイジーハニー』、ドラマ出演作に『夢を与える』(WOWOW)、『東京怪奇酒』(テレビ東京)など。
オフィシャルHP
http://hydroblast.asia/