インタビュー・レビュー
サウンドデザイナー佐藤公俊さん | フィールドレコーディングへの想い

電子音楽バンド「Mother Tereco」やサウンドデザイナー・エンジニア、DJ、トラックメイキング等多岐にわたり活躍する佐藤公俊さん。フィールドレコーディングにおいてTASCAMのPCMハンディレコーダーDR-100MKIIIが欠かせないようです。今回、奥多摩へのフィールドレコーディングに同行し、彼のフィールドレコーディングへの想いやDR-100MKIIIについてインタビューしました。

(動画に使用されている音楽は、佐藤公俊さん作曲によるもので、このインタビューで実際に奥多摩でDR-100MKIIIによりフィールドレコーディングした音を使用しています)

ティアック:佐藤さんは今まで様々な場所でフィールドレコーディングをされていますが、印象的なフィールドレコーディングの思い出をお聞かせください。

佐藤さん(以下敬称略):中国に行った際に、人の活気や熱気がとてもすごくて。北京駅の前にある広場に露天商が沢山あり、お客さんも商売人も大勢の人が売ったり買ったり、文句を言ったり騒いだり、果ては警察が来たりと、とにかくエネルギッシュでした。その様子を録音したのですが、それがとても面白かったです。フィンランドに行った時にストリートミュージシャンの演奏を録音したことも思い出深いです。日本で聴くストリートミュージシャンのリズム感とは違い、パーカッションのエネルギーがすごかった。そういったフィールドレコーディングをするとき、僕は定点で録音せず、移動しながら録音することがあります。フィールドレコーディングって、一か所に留まって記録をするというイメージが強いと思いますが、僕はただの記録として録音するのではなく、そこに物語性を取り入れたいと思ってます。僕の主観を通した記録ということで録音したい、だからレコーダーを手で持って歩きながら録音することがあります。ヨーロッパは石畳なので音の響き方が日本と全然違いますし、異国の言葉が上下、左右、前後から流れてくるのを上手く録音できると、後で聴き返したときに、まるでその場所に戻ったような面白さも感じられます。そのためには優れたレコーディング技術と機材が重要なんだと感じました。

ティアック:音というのは人間の記憶にとても残るなと感じます。

佐藤:音の記憶は例えると、海岸に打ち上げられた石のように角が取れた丸い記憶だと思うんですよ。いい意味でいろんなディテールが忘れられている部分があって、肌触りのいいような、手に持ちやすいような、心地よい記憶になるところが、音の記憶のいいところかなと思います。映像などは鮮明過ぎて情報量が多すぎる場合もありますが、それが音だと、細かいところは忘れていることもあるけれど、もっと重要な、その時に感じた自分の気持ちだったり、記録方法として映像とは違う感情を思い起こさせる方法だと思っています。

ティアック:佐藤さんはミュージシャンであり、さらにサウンドデザイナーという肩書がありますが、サウンドデザイナーとしてフィールドレコーディングはどういう位置づけなのでしょうか?単純に音風景を記録するだけでなく、それをアーティスト活動にどのように活用されていますか?

佐藤:フィールドレコーディングをサウンドデザイナー視点で考えてみると、取り入れ方としては音の変化の仕方、例えば自然の中である音量の変化っていうのは、なだらかであったりとか、耳に心地いいモノ、人間の身体に浸透しやすい変化だったりするんですよね。それこそ1/fゆらぎだったり炎の揺らぎ、いろんなもののゆらぎっていうのは、心地が良いと言われたりします。僕はどちらかというと、サウンドデザイナーとしてフィールドレコーディングした素材はそのまま使うことはしなくて、音の周波数がどの様に変化しているのか、どういう音量変化が起きているか、というのをデータとして録音・記録し、それを例えばサウンドデザインする際に作成した音の音量変化に使ったりだとか、そういった形で活用しています。森の中で風が流れてくる音、木々がざわめいている音、その音量・音域の変化ってすごく心地いいものがあるんですけど、そういうものをいろんなところでレコーディングして、それを後で時間軸で確認して、どういう風に音が変わっていくかっていうのを数値に変換して、その数値をソフトウェア音源に当て込んでいったり。どちらかというと加工する素材として使うというよりも、音を生成する際参考にするデータのひとつですね。

ティアック:自然界での「音の表現」というのを、「どのように楽器などで表現するか」というためのお手本に使うのですか?

佐藤:そうですね。そういう使い方もしています。

ティアック:面白い使い方ですね!風を表現するなど、難しそうです。

佐藤:ホワイトノイズなどを使えばその「風の音色」に近いものは出るんですけど、音色だけじゃなくて音がどういう風に時間の中で変わっていくのかという事はすごく大事だと思うんですよ。そういうのをまた取り入れるというのも一つのフィールドレコーディングした音の楽しみ方かなと思います。

ティアック:そういう視点にどのようにしてたどり着いたのでしょうか?なかなか普通の発想からはそこに至らないのかなと。

佐藤:僕は本を読むのが好きなのですが、音楽関連だけでなく様々な本を読んでいく中で色んなものを関連付けしていって、「音は時間がないと存在しない」、「時間の中で変わっていくからこそ音である」、ということを考え始めて。そこから段々と時間の中で変化していく音の変化っていうのを意識するようになりました。

 

DR-100MKIIIとフィールドレコーディング

ティアック:TASCAMのレコーダーの印象などをお聞かせください。

佐藤:現場で使うことやユーザーの事を考えたデザインやシステムが良いなと感じています。それこそDR-100MKIIを使っていた時に「こういう風にしたらいいのに」と思っていたものがMKIIIで改善されていてとても感動しました。

ティアック:佐藤さんは以前からDR-100MKIIを使って頂いていました。MKIIからMKIIIへ様々な機能改善がありましたが、「これは叶えてくれた!」というのはありましたか?

佐藤:MKIIを使っていた時、96kHzで録音できることが良かったのですが、MKIIIはハンディで192kHzで録音可能になってとても嬉しかったです。あと視認性が向上して、目で見る情報がとてもわかりやすく増えましたよね。フィールドレコーディングって音を耳で確かめるのは大事なんですけど、どうしてもモニタリングしきれない情報ってあるんですよ。風の音や耳で聞き取りきれない低音など。そんな時にちゃんとメーターを見て、「あ、今少し風が強くて、低音が吹かれている、じゃあローカットを入れよう」というのが判断しやすくなりました。それをすぐに手元で操作できるようになったのもいいです。あとディスプレイ上のメーターにレベルの数値が表示されて、とてもわかりやすくなりました。レコーディングをおこなう上でレベルの確認は重要ですから。さらにボディの下に付いているLEDで録音レベルも確認し易くなりました。これを見て「今どのぐらいの入力レベルなのかな?」っていうのがすぐわかるというのはとても重要ですね。やはり録音は「耳で聴いてなんぼ」ですけど、ちゃんとした素材を録ろうと思ったら五感を使って感知していかないといけないので。

ティアック:自分が使うレコーダーというのは、「自分の記録したいもの」、「表現したいものは全て集めてもらわないといけないもの」なので、言い換えれば体の一部と言っても過言ではないと思います。となると性能もないといけないし、レスポンスが早くないといけない、ということもあると思います。

佐藤:それは重要だと思います。機材に人間の方が慣れていくという方法もあると思うんですけど、レスポンスはものすごく大事だと思います。もちろん録音機材だけにいえることではなく、楽器でもそうだと思います。人間がアクションを起こしたときのリアクションにギャップがあると、人間はどうしても気持ち悪さを感じてしまう。そのギャップができるだけ少なかったり、レスポンスが良かったりするのは、プロダクトデザインとして優れているものだと思います。

 

奥多摩でフィールドレコーディングを終えて

ティアック:奥多摩の自然の中でDR-100MKIIIでフィールドレコーディングをされていかがでしたか?

佐藤:色んな機能にすぐアクセスできるのでレスポンス、操作性が良いです。例えばレベルの調整等わかりやすくなってます。MKIIから改善されていてすごくよくなっていると思います。本当にパっと録りたい音をすぐに良い音で録れるので、録音がすごく楽しくなるレコーダーだなと思います。

ティアック:今回はどのフォーマットで録音されたんですか?

佐藤:192kHz、24bitのWAVで録音しました。後で加工する場合、高いサンプリングレートで録音したものをダウンコンバートすることはできるけど、低いサンプリングレートで録音したものをアップコンバートしても、音質が回復するわけではないので、基本的にはそのレコーダーの設定可能な中で一番高いフォーマットで録る様にしています。「その場・その時の環境音」は一度しか録れないので、気を付けているところです。

ティアック:DR-100シリーズで受け継がれている質実剛健なガッシリとした重量感、サイズなどのデザインはフィールドレコーディングにとって重要な要素にもなると思うのですが。

佐藤:安心感がやっぱりありますね。あれだけの重さがあれば安定しますし、しっかり手になじむサイズなので、プロフェッショナルユースであり、信頼のおける筐体だと感じます。丈夫さは重要です。

ティアック:フィールドレコーディングは、いつも何時ぐらいから始められるんですか?

佐藤:ほとんど朝からですね。

ティアック:フィールドレコーディングの場合、時間帯で録れる音も変わると思います。山の場合、動物の活動時間とか、日照時間とか。そういうのもフィールドレコーディングの楽しみの一つなのかなと思います。

佐藤:季節などもすごく反映しますよね。相手が自然なので何が起こるかわからないし、風が強くて音がどうしても録れないという時もありますし。「もうダメかな」っと思っていたら急に鳥がいい具合に鳴き始めたりとか。何が起こるかわからないということもフィールドレコーディングの楽しみの一つでもあるのかなと思います。

ティアック:DR-100MKIIIはマイクユニットを従来機より高音質化し、ADコンバーターもS/N比の良いものを採用しました。実際に使用されて、MKIIから良くなったという点はありましたか?

佐藤:S/N比の違いは歴然でしたね。マイク感度の良さも、ダイナミックレンジが広い環境音/自然音を録る状況下では、スペックの高いものはどうしても必要です。MKIIIはとても良くなっていて満足しています。フィールドレコーディングにおいて、ローカットが4段階で使えるっていうのも結構重要です。

ティアック:ローカットの周波数はどのように使い分けていますか?

佐藤:基本的に風の強弱や、場所によります。海岸の時は80Hzや120Hzにしたり、渓谷や山だと抑え目にしたり。

ティアック:今後、DR-100MKIIIを使ってどのような場所にフィールドレコーディングに挑んでいきたいですか?

佐藤:このサイズなので常にカバンの中に入れておけますし、DR-100MKIIIを持って街中に行ってみたいですね。静かなところとか、音量の差が大きいところとかで使ってみるのも面白いなと思っています。下町とかに行って商店街を録音するのも楽しいかなって思います!色々な場所に持ち運んでレコーディングをしたいなって思わせてくれるレコーダーですね。

ティアック:にぎやかなところとか面白そうですね!

佐藤:それを192kHzで録るっていう面白さ!(笑)

ティアック:渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で録音するのも面白そうですよね!

佐藤:いいですね!人が行き交う感じをステレオで録るのは面白そうですね!また、以前楽器の音を録る場合でもDR-100MKIIを使ったんですけど、コンデンサーマイクで録ると感度が良すぎたのか鉄琴の音がカチカチ鳴ってしまっていた時に、DR-100MKIIを使ったら理想に近い音が録れたんですよ。ハンディレコーダーで録ると上手くいく楽器も色々ありますよ。

ティアック:いろいろ試行錯誤して行きついた感じですか?

佐藤:そうですね。トライアンドエラーじゃないですけど沢山試してみました。

ティアック:今後も様々な場所でDR-100MKIIIでフィールドレコーディングを行って頂きたいです!

佐藤:普段は短めの尺で録ることが多いので、今度は10分、20分とかゆっくり録ってみたいです。DR-100MKIIIは電池がデュアルバッテリーになっていて、長時間録音にも対応できるのでいいですね。今度ゆっくり録ってみます!

 

これからのフィールドレコーディングについて

ティアック:佐藤さんはフィールドレコーディングで録音した音を「フィールドレコーディングした音」として録り溜めていると伺いましたが、今後Mother Terecoの音源制作に使ったり、サウンドデザイナーとしての音源に積極的に使用されるのでしょうか?

佐藤:2016年の暮れごろに神奈川のユーシン渓谷に行ってDR-100MKIIIで録った音をMother Terecoのアルバムで使わせてもらいました。僕が普段扱う電子音は、ある意味二次元的、平面的になりがちなんですけど、そこにフィールドレコーディングした音が入ると奥行や、見えてくる景色が変わってきます。今まではどちらかというと、音像の一部というか、ちょっと後ろで漂っているような感じでフィールドレコーディングした素材を使うことが多かったんですけど、DR-100MKIIIを手にしたことを期に、積極的に電子音と環境音をどうやって絡めていくか、それを折り重ねていって一つの流れをつくるような作品が作れたらいいなと考えています。

ティアック:フィールドレコーディングにおいて何かアドバイスなどありますか?

佐藤:その場所の音に耳を傾ける、その場で流れている音を五感を使って感じることが重要だと思います。音は実は耳だけで聞くものではなく、肌で感じるものでもあるし、普段生活の中で聞こえている音と、自然の中で聞こえている音も全然違います。音と一緒に温度とか、時間だったり、季節だったり、色々なものを一緒に感じながら音に集中していくと面白いんじゃないかなと思います。好奇心を持って行動していくときっと楽しいですよ。

 

プロフィール

 

佐藤公俊
2015年、佐藤公俊と難波卓己の 2 人から成る電子音楽バンド「Mother Tereco」の活動を開始。都内でのライブを中心にファッションショーやアートスペースにおいての音楽、ダンスカンパニーの舞台音楽も手がける。ソロ名義での音楽制作を始めミックスエンジニアやDJ、またパブリックスペースやウェブコンテンツのサウンドデザイナーを手がける等、多方面で活動中。

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