tascam logo

ミュージシャン高野寛氏が宅録に夢中になるMTR。DAWにないライブ感のあるテイクを残す

高野寛さんインタビュー

ミュージシャン、音楽プロデューサーとして多方面で活躍されている高野寛さんの、セルフカバーアルバム「今、あの頃の歌 vol1, vol.2」制作にてTASCAMのオールインワンプロダクションミキサー『Model 12』が導入されました。レコーディング時の使用用途、導入の経緯についてお伺いしました。

使用機材

SERIES 208iModel 1212トラックオールインワンプロダクションミキサー

 

高野寛さんBandcampリンクは、こちら
https://takanohiroshi.bandcamp.com

 

Model 12の画像

 

今回のアルバム作成経緯についてお聞かせください。

高野寛さん(以下敬称略) : コロナ禍以降、主だったライブ活動の見通しが立たなかったころから、「Bandcamp」という配信サイトを使って楽曲をリリースし続けてきました。宅録派なこともあり、思い立ったらすぐ制作、配信という流れで、この2年間で30アイテム、200曲以上の他では聴けない音源(宅録音源・ライブ音源)をリリースしました。
今回のアルバムは弾き語りやライブに近い感覚で、宅録っぽい音で録ってみたいと思いました。ウクライナ難民へのチャリティーも目的の一つです。

セルフカバーに至った理由をお教えください。

高野 : ネットニュースを観て様々な思いが去来する中、ふと歌詞のフレーズと今がリンクする古い曲が何曲かあったので、今の自分の気持ちでセルフカバーをしてみて、歌詞、サウンド共に再解釈することで、また違った響きになるんじゃないかと思い歌ってみました。

レコーディング環境や今回使用した機材等をお教えください。

高野 : 全て自宅スタジオで録っています。
例えば「今、あの頃の歌 vol.2」1曲目「free」はModel12にすべての歌と楽器を録って、本体だけでMIXして完結しています。ドラムパートはMIDIでシンクさせたサンプラーのエフェクトをリアルタイムで操作して1発で録音しました。
「今、あの頃の歌 vol.1」1曲目の「Skylove」は、サンプラーで作ったリズムをDAWでエディット、エレキギター2本とベース、シンセサイザーを録音し、Model 12に戻してボーカルとコーラスを録音し、ミックスを行いました。その後、2ミックスをDAWに戻しマスタリングを行っています。

使用された録音環境レコーディング環境

今回の音源制作において、こだわった点についてお教えください。

高野 : 今回は、完璧なテイクを作るというより、ラフでも勢いのある演奏を残すように心がけました。
例えば、リードボーカルはほぼパンチインせず録音しています。宅録は細部にこだわり過ぎてしまうことがあるので、今回の制作ではルールを設けて、その中で、どれだけ楽曲をかっこよくできるかをテーマにして制作しました。制作後はモニタースピーカーやヘッドホン数種類、スマホのイヤホン等、できるだけ色々な再生環境でチェックして楽曲を客観的に判断するようにしています。

Model 12を導入された経緯についてお教えください。

Model 12

高野 : 昨年のサンレコの取材にてカセットMTRで制作した時、初心を思い出して新鮮に感じました。4トラックは制約だらけでしたが、画面を見ずに音だけに集中する感覚は大事だと思いました。Model 12は大きすぎず小さすぎず、現代版MTRとして自分にとってはちょうどいい感じです。

楽曲制作にあたりModel 12をどの範囲まで使用されましたでしょうか。

使用マイク環境ボーカルレコーディング環境

高野 : 楽曲のミックスはModel 12でやることを基本ルールに、本体フェーダーの操作だけで賄えるところは全て行いました。楽器の録音時は一度DAWに戻して、音を足したりEQで整えたりした後に、再度インポートしてダビングしたりした曲もあります。ボーカルトラックは基本Model 12で録っていて、リードボーカルはパンチインもほぼしていません。

DAWではなくMTRを使用した理由をお教えください。

使用されたベース使用されたベース

高野 : DAWはもちろん便利だけど、編集に頼ってしまうし、視覚的にプログラミングの様にピッチやリズムの修正など何でもできて、懲り始めると際限がないです。特に今回の曲はライブで何度も演奏していて完全に体に入っているので、全体の完成度よりも、ライブ感のある、勢いのあるテイクを残すことに集中しようと思いました。例えば、ベースだといつも座って録音するところが、Model 12だと立って録音したくなるんですよね。MTRモードだと一曲止めずに丸々録音するので、そういった演奏のノリも記録できたと思います。 MTRは自分の耳だけで録音に向き合っていく、演奏を記録していく中で、編集や細かい修正はできない制約がある分、試されている感じがして、集中力が高まる気がします。

音質や操作感についてはいかがでしょうか。

使用されたマイク使用されたマイク

高野 : TASCAMらしい太さがあります。EQも効きが良いし、ベースを直で入力しても良い感じでした。1曲目と3曲目はダイナミックマイク直差しで録っていますが、ヘッドアンプ(TASCAM Ultra HDDAマイクプリアンプ)と相性が良く2曲目、4曲目のコンデンサーマイク直差しよりもしっくり来ました。
本体のミックスもだんだんコツが分かってきて、生演奏のトラックはピーク時にLEDが点灯するくらいにうっすらコンプをかけると、バランスが取りやすくなります。歌はずっと点灯するギリギリくらいにかけて、曲中でフェーダーやリバーブのセンドを動かしてバランスを取りました。カセットMTRの様なテープコンプをイメージし使用することで、上手く抑揚のみを抑えたミックスができたと思います。

Model 12の感想、評価できる機能等お教えください。

model 12

高野 : まず、この価格でこんなにツマミがたくさんついている録音機は貴重です。(笑)
オーディオインターフェースとしても、常にコンプとEQを通っているからか、太さやアナログ感のある音だと思います。多機能すぎて全部は使い切れていないくらいです。
宅録用MTRとして使うなら、手弾きの楽器や歌などをModel 12に録ったり、本体でツマミをいじりながらミックスしたりすると、テープしかなかった時代の録音の感覚が楽しめます。演奏が好きな人なら、仕上がりも早くなるし、手作り感のあるテイクが残せると思います。
Model 12のリバーブは使いやすいですね。本体でのミックス時に、歌やシンセサイザーなどはもちろん、ベースやギター、ドラムにもうっすらかけると、ライン録音の平面的な感じが薄れて、空間の繋ぎや全体の馴染みが良い感じでした。曲によって「PLATE」、「STUDIO」、「LIVE」の内蔵エフェクトタイプを使い分けています。

本日は貴重なお話ありがとうございました。

 

プロフィール

高野寛 / Hiroshi Takano

1964年生まれ。1988年ソロデビュー、2019年までにベスト盤を含む22枚のソロアルバムをCDで発表。

ソロ作品の他、世代やジャンルを超えたアーティストとのコラボレーションも多数制作。ギタリストとしてもYMO、高橋幸宏、細野晴臣、TEI TOWA、星野源を初めとした数多くのアーティストのライブや録音に参加し、坂本龍一や宮沢和史のツアーメンバーとして延べ20カ国での演奏経験を持つ。サウンドプロデューサーとしては小泉今日子、THE BOOM、森山直太朗、GRAPEVINE、のん などの作品を手がけている。

2018年10月10日にデビュー30周年を迎え3枚組ベスト『Spectra』とオリジナルアルバム『City Folklore』をリリース。noteで30年を振り返る自伝的エッセイ『ずっと、音だけを追いかけてきた』を執筆。
2020年春以降ライブ自粛が続く中、未発表作品をほぼ毎月ペースでBandcampより配信リリース(2021年6月現在23アイテム・200曲以上)。その他にも動画配信プログラム「新生音楽(シンライブ)」など、現状打破の試みに意欲的に取り組んでいる。

『Spectra』(2018)、『Everything is Good』(2017)、『TRIO』(2014) などのアルバムジャケット写真は自身の撮影による作品で、2014年のブラジル滞在中に撮影した写真と滞在記によるフォト・エッセイ集『RIO』も刊行している。

2013年4月から京都精華大学ポピュラーカルチャー学部・音楽コース特任教授に就任、2018年4月からは同学部客員教授に就任。

オフィシャルHP
https://www.haas.jp/bio

セルフカバーアルバムは、こちら
「今、あの頃の歌 vol.1 / Now, the songs of that time vol.1」
https://takanohiroshi.bandcamp.com/album/vol-1-now-the-songs-of-that-time-vol-1 「今、あの頃の歌 vol.2 / Now, the songs of that time vol.2」
https://takanohiroshi.bandcamp.com/album/vol-2-now-the-songs-of-that-time-vol-2

 

SHARE

特設サイト