2000年10月に全国初の公設民営劇場として北海道富良野市にオープンした富良野演劇工場様では、かねてよりdBTechnologies製品を多数導入いただいています。
今回は、当劇場を管理・運営するNPO法人ふらの演劇工房(全国初のNPO法人)で音響を担当されている長谷川浩一郎氏に導入の経緯や運用についてお伺いしました。
導入された製品:
スピーカー
ラインアレイ:『dBTechnologies DVA T8』x 8台
サブウーハー:『dBTechnologies DVA S30N』x 2台
ポイントソース:『IG2T』x 2台、『dBTechnologies OPERA 12』x 4台
コラム型:『dBTechnologies ES 1203』x 4台、『dBTechnologies ES 503』x 2台
アクセサリー類
・DVA T8対応製品
『RDNET CONTROL 2』x 1台、『DRK 20』x 2台、『DRP S30』x 2個、『DWK 20』x 2セット
・IG2T対応機種
『TC-IG2T』x 2台、『RC-M1』x 2個
・OPERA 12対応機種
『FC-OP12』x 4個、『RC-M1』x 4個
・ES 503対応機種
『STEREOKIT ES503』x 1台、『TC-ES12』x 2個、『TC-ESTOP』x 2個
富良野演劇工場がオープンした経緯について教えてください。
長谷川浩一郎氏(以下敬称略) : 富良野という町は脚本家 倉本 聰先生が『北の国から』というドラマを書き有名になりました。
『北の国から』が放送終了した後も富良野に演劇文化を根付せようということで、市民の中で有志が立ち上がりました。
その事もあって、当時の市長が市長選の公約に、富良野に演劇専用のホールを作る事を挙げたのです。そしてその方は見事当選し、紆余曲折の後に2000年10月この劇場がオープンしました。
どのような公演を行うことが多いですか。
長谷川 : 倉本先生の芝居を始め、それにとどまらず、立川志の輔さんや春風亭昇太さん等落語の公演、音楽コンサート、地元の音楽教室の発表会等様々なことを行っています。
『富良野演劇工場』という名前は珍しいですよね。
長谷川 : そうですね。通常は「劇場」「ホール」という名前が多いのですが、『富良野演劇工場』という特殊な名前にしたことにはある経緯があります。
それは、ここで『演劇ソフト』を作って外に発信していってもらおうということ。つまりこの場所は『演劇ソフト』の生産拠点でありたいという思いから名付けられました。
劇場のこだわりはありますか。
長谷川 : 建設するにあたり倉本先生より様々なアドバイスをいただき、反映をしています。
まず、客席は15度という急勾配になっていて、全てのお客様が全ての役者さんの表情を見てセリフが聞こえてくるように作られています。
さらに、客席は全てベンチシートになっていて肘掛けがありません。約300席が満席になるようなお芝居であれば別ですが、例えば映画を放映する日などは必ずしも満席になるわけでは無いので、余裕を持って座りくつろいでいただけるように考えられています。
また、観客だけでは無く、作り手や演じ手の使いやすさも考えられています。
客席の壁の色はジャングルグリーンという深い緑色で統一されていて、そのことにより劇中暗転シーンにおいては完全な暗闇の世界を簡単に作り出すことが出来ます。
音響ブースにおいてはガラス越しのブースでは無く、客席の最後尾のオープンなスペースにあります。その為、実際にスピーカーから出る音や演者さんの生音を聞きながらオペレーションを行えます。
舞台は檜舞台ではなく厚さ2cmの合板を貼っているだけなので、どこに穴をあけても、ガムテープも貼って大丈夫です。例えば、穴をあけて奈落から人が出てくるような演出も可能です。
演劇専用劇場と謳っているだけあり、客席最前列にはオーケストラピットでは無く、床を外すと深さ40 cmバスタブが一列にずらっと出てくるようになっており、水をためて水中ポンプを入れ水の揺らぎを作ったり、土を入れて木を植えたりといった演出も出来るようになっています。
さらに中央の横3列、縦7列の客席も全て外せるようになっています。客席の下が楽屋になっているので、楽屋に通じる花道として使用することができ、脇に座っているお客様は役者さんの出入りを間近で見ることが出来ます。
舞台の奥行きは通常は15mなのですが、後方はリハーサルルームと繋がっていて、そこまで入れるとステージの奥行きは23mになります。客席の奥行きよりも舞台の奥行きの方が広く、こういった劇場は全国的にも少ないかと思います。倉本先生のお芝居などはこの23m分すべてを使った舞台演出をしますので、非常に奥行き感のあるものとなります。リハーサルルームまでステージ用途としての利用を想定していましたので照明や音響の回路も設計設置されています。
富良野演劇工場の利用について何か特別なことはありますか?
長谷川 : 市民を始め、様々な方に気兼ねなく利用していただければと思います。
この劇場は24時間利用可能となっており、貸館料も比較的格安となっております。
以前東京の劇団の方がこちらで長い間稽古をされて、東京に帰り公演を行うという事がありましたが交通費・宿泊費を含んでも格安という事でした。
普段のお仕事について教えてください。
長谷川 : 5名の職員でこの劇場を管理運営しながら、貸館業務、自主公演の企画制作等が主な仕事内容となります。
5人で劇場を管理する上で、トイレの掃除以外は全てやります(笑)。冬の除雪、客席館内の清掃、屋根の落ち葉取り等も職員で行っています。
実はこれがすごく良いことと感じていて、普段気が付かないことに目が向くのです。例えとして愛車を久し振りに洗車した時、痛みや消耗等、様々なことに気付くと思うのですが、それに近いことが劇場を管理する上でも感じる事が出来ると思います。
富良野演劇工場のお仕事で特にこだわっていることはありますか。
長谷川 : 来場者は勿論のこと、利用される方に対しても「また来たい」、「また利用したい」と思ってもらえる様常日頃考えています。
富良野演劇工場以外のお仕事はどのようなものがありますか。
長谷川 : 市内にあります富良野文化会館の技術も受託しているので、富良野文化会館で催し物があればそちらに行くこともあります。
数あるスピーカーメーカーの中からdBTechnologies製品を数多く導入いただいていますが、機材選定で重視していることはありますか。
長谷川 : 壊れない事、取り回しが良いこと、単体で重くない事です。
アンプ内蔵で尚且つ取り回しが良いという点において導入にあたり重要としていました。
機材導入の経緯は、富良野のお祭りである『北海へそ祭り』が今から4年前に50周年を迎えるにあたり機材の更新をすることとなり、僕が機材選定を任され、その年のHSBA機器展に行った際、たまたまティアックブースでdBTechnologiesを見つけたことが始まりでした。
その際に見たDVA T8とDVA S30Nの組み合わせがへそ祭りの会場と富良野演劇工場で利用するには丁度良い大きさと感じました。これより大きいと富良野演劇工場のキャパシティーでは余力が大きいと感じ、重視していたコンパクトさを持ち合わせながら18インチダブルのサブウーハーを装備しているので不足はないと思いました。
最終的に導入前デモ機を数日お借りして音を聞いて決めました。現在1分の4対向で鳴らしていますが客席最後方までしっかりと音を届けることが出来ています。
dBTechnologies製品に共通して感じる特徴はありますか。
長谷川 : 音質の良さ。リニアな感じで凄くナチュラルに音が出てくる感じです。
dBTechnologies DVA T8/DVA S30Nは普段どのような場面で運用していますか。
長谷川 : 演劇工場で音楽コンサート等最前列から最後列にかけて満遍なく音量音圧を必要とされる公演において利用率が高いです。
その他『北海へそ祭り』のステージのメインスピーカーとして使っています。
『北海へそ祭り』は屋外のイベントなのですが、DVA T8/DVA S30N 共にオプションのレインカバーを装着しているので、不意の雨に対する安心感へのアドバンテージは高いです。
ラインアレイスピーカーを導入する上で重視されたことはありますか。
長谷川 : 音飛びの良さ、かつスピーカーの近くにいる人に対してもうるさくならない様セッテイングが可能ということと、狙った所に音を届けられるという事をラインアレイスピーカーでは重視しています。これはESシリーズ等のコラム型においても同様です。
パワー感はいかがですか。
長谷川 : 充分と感じます。劇場でもMAXで出すことはありません。質の良さを感じます。
音の印象はいかがですか。
長谷川 : 素直でリニアな感じです。忠実に再現してくれます。
設置性能の印象はいかがですか。
長谷川 : コンパクト故に1人でも手早く設置できる利点があり、片側10分程で組み終える事が出来ます。
スピーカーの制御や監視はどのように行っていますか。
長谷川 : 視覚的にスピーカーが見えるのでdBTechnologies Networkを主に使っています。
使い方としては各スピーカーの出力をコントロールすることが多いです。前列を狙う下段のスピーカーの出力は小さめにして、上段に連れて出力が大きくなるようにしています。
dBTechnologies Networkで内蔵DSPのEQは設定しますか。
長谷川 : DSP、EQは基本的にフラットで使っています。視覚的な事もありEQは卓で調節しています。
IG2Tは普段どのような場面で運用していますか。
長谷川 : 『北海へそ祭り』では、スピーカーカバーエリアが直線で250m程あるのですが、各両端に置いてより広範囲に音が届くようにしています。
演劇工場ではインフィルとして立てて最前列中央寄りのお客さんをカバーするように使います。良い意味で押し出し感が無いので気に入っています。
その他、市内の野外イベントでも離れたお客さんに向けるスピーカーとして使います。
IG2Tを選んだポイントはありますか。
長谷川 : インフィル用途や、外仕事で使いやすいスピーカーを探していた時に見つけて、このコンパクトさに惹かれました。あとは今までにないスタイルなのでそこに惹かれたこともあります。
音の印象はいかがですか。
長谷川 : 素直で綺麗な音で確実に音を届けることが出来るスピーカーだと思います。
dBTechnologies OPERA 12は普段どのような場面で運用していますか。
長谷川 : モニタースピーカーとして使う事が多いですね。
パワードなので電源と信号線の2本をひく必要はあるわけですが、それを差し引いてもアンプ内蔵の優位性が高いかと思います。
富良野演劇工場でも外仕事でも使いますが、アンプを持っていかなくていいという事がありがたいですね。音もしっかり鳴ってくれるので必要にして十分です。
アンプラックを持っていく現場は無いわけですね。
長谷川 : 現在の所ありません。
転がし用として導入されましたか。
長谷川 : へそ祭りでポイントソーススピーカーとしての利用を念頭に置いて導入しました尚且つモニタースピーカー用途としても考えていたのでこのタイプを選びました。
その他、INGENIA共にレインカバーがオプションで用意されているので、この辺りも大きな判断基準となりました。
パワー感や音の印象はINGENIAと比較していかがですか。
長谷川 : 12インチウーハー内蔵なのでパワー感はOPERAの方が上かと思います。
反対に音の緻密さや綺麗さはINGENIAの方が上ですね。 欲しい音に合わせて使い分けています。
下方向に指向性が広い、上下非対称ホーンの特性についてはいかがですか。
長谷川 : 先日行われた落語公演時に、サイドの返しとして使用しました。その際この特性を意識してかなり上からの狙いとしました。
OPERA 12のウーハー位置を演者の耳の高さ程に上げ運用し、クリアなモニター環境を構築出来たかと思います。
1台当たり14.3kgという軽さは普段の運用に役立っていますか。
長谷川 : アンプ内蔵の上この軽さなので、重宝しています。
ESシリーズは普段どのような場面で運用していますか。
長谷川 : 店舗内やビアモールのパーティーにバンドさんを呼んで音響をする際に持っていくことが多いです。この様な現場は、必ずしもそこにいるお客さん全員が音楽目当ての人だけではないので、食事を目当てに来た人にとって不愉快になる音量を出さずに、心地よく会話が弾むくらいの環境をつくりたい。それを踏まえるとコラム型スピーカーはスピーカーの近くにいる人に対してうるさくなく、遠くにいる人にもしっかりと音を届けることが出来る。そういった点からこのES シリーズの利点は大きいですね。
この場所でのロビーコンサートでもESシリーズを使います。演劇工房にはゴスペルのサークルがあるので、マイク3本とES 1203を置いてコンサートをします。ホワイエは天井も高くライブな響きとなっているので、ゴスペルやピアノ発表会等の用途にはとても向いています。
紅葉が見頃となった秋に劇場の外で7人組の女性のアカペラグループによる野外コンサートも行いました。ES 1203を使用し、モニタースピーカーはOPERA 12を使いました。 その他、カフェ等での利用時には、デジタルアンプ内蔵による省電力運営が可能な点からもESシリーズを使用する機会が殆どです。見た目からは想像がつかない音がするので周りの方々からは驚かれます。(笑)
dBTechnologies ES 1203のパワー感はいかがですか。
長谷川 : 4インチ×8個と12インチ×2個のウーハーと相まって十分な量感です。
ES 503と共にデジタルステアリングにより指向性変えることが出来るので設置する場所により使い分けています。
サブとのバランスはいかがですか。
長谷川 : サテライトスピーカーとウーハーの繋がりは良いかと思います。サブの音量もデフォルトで使用しています。
Bluetooth®接続は行いますか。
長谷川 : サウンドチェック時は手軽なBluetooth®で行う事が多いです。
STEREOKIT ES503を使用した、運用は行いますか。
長谷川 : カフェ等客席が奥まったところにもある場合は、サテライトスピーカーを2つに分けて利用することもあります。モノラルパラもありますが、音源がステレオの場合やリバーブを多用する場合はステレオで使用します。
ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします!
長谷川 浩一郎(はせがわ こういちろう)
専門学校を卒業後、テクニランド社に所属。7年間東京ディズニーランドでショーの音響を担当。 後に株式会社共立に所属し、赤坂BLITZで7年間音響管理を行う。
33歳で初めて北海道富良野を訪れ、その素晴らしい景観に感銘を受け、富良野市へ移住。
現在はNPO法人ふらの演劇工房で音響担当兼施設管理官を担当。
ふらの演劇工房
https://www.furano.ne.jp/engeki/