アビッドテクノロジー内に開設されたセミナールーム「Avid Space Tokyo」にてクロックジェネレーター TASCAM CG-2000が導入されました。その使用感をアビッドテクノロジー株式会社Audio Application Specialist Managerのダニエル・ラヴェルさんに伺いました。
ティアック:TASCAM CG-2000を導入頂いたきっかけや決め手を教えてください
ダニエル・ラヴェルさん(以下ダニエル):まず、TASCAMとの関わりですが2016年3月に開催された『TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND LIVE " THE REC"』で24Bit/96kHzフォーマットで64ch録音の必要があり、その時DA-6400を2台借りてレコーディングしました。
そこでTASCAMとのお付き合いが始まったのですが、昨年Avid Space Tokyo(セミナールーム)をオープンするに当たり、Pro Tools | MTRXでシステムを構築する際、マスタークロックが必要になりました。 デジタルレコーディングシステムを構築していく中、クロックが必要な機器が増えています。色々な製品がありますが、他社のモデルと比べてTASCAM CG-2000は出力が12系統あり、様々な機器のクロックマスターを1台で対応できることが導入の決め手でした。
ティアック:セミナールームのセッティングを教えてください。
ダニエル:Pro Tools | HDX DSPが3枚、HD MADI、それにMTRXです。またDOLBY ATOMOS HD RMU(レンダリングマスターユニット)にも対応しており、それら全ての機器はTASCAM CG-2000からマスタークロックを96kHzで送りだしています。
このセミナールームではもっと大きなシステムを組むことがあります。そうした場合でも全てCG-2000をクロックマスターにします。とにかくクロックは重要です。以前のシステムはSYNC HDをベースにループシンクでクロックを同期させていました。
MTRXは外部クロックが必要ですが、SYNC HD、HD MADI、HD I/Oなど全てにTASCAM CG-2000からSTAR CLOCKで同期させています。
ティアック:実際にCG-2000を導入頂いて、音質、操作性、安定性など感想をお聞かせください。
ダニエル:操作性は何も問題が無かったですね。私は箱から出して5分で使える様な機器が好きです。特に最近はユーザーインターフェースがよい製品が求められていますからね。CG-2000に関してはマニュアルを読まずにすぐ使えました。難しくないです。簡単なのはいいことですね(笑)。
私自身がミックスをする際、オーディオクオリティが重要なのはもちろんですが、安定感も同じくらい重要です。MTRXシステムはフルデジタルですから、このシステムでクロッキングされていることで問題はありません。
TASCAMさんにとっていいことかわかりませんが(笑)、仮に外部クロックが異なった場合でも、オーディオが影響を受けない様、MTRXはリクロッキングする機能があり、エラーが出ません。外部オーディオのリファレンスが異なる場合でもMTRX自身のクロックでリシンキングします。それでも安定したマスタークロックがあることはとても重要です。クロックでもAESなどで送る場合とWORDで送る場合の音の違いを気にされる方もいますし、インターナルクロックでジッターなどの影響が出ることもあります。お客様のシステムではさらに多くのデジタル機器を導入、運用されていますので、シンクはとても重要です。
そしてトランスペアレントなことが重要です。原音に忠実であるという事です。音のキャラクターに影響を与えないクロックが欲しいと考えていました。
ティアック:TASCAM CG-2000はトランスペアレントな音でしょうか。
ダニエル:そうですね。これはAvidのポリシーでもありますが、出来る限り透明性、つまり原音に忠実である必要があると思います。Avidの製品はインプット、アウトプットでキャラクターをつけていません。可能な限りトランスペアレントでありたいです。もしエフェクトが必要な場合はプラグインを使って頂きますし、音にキャラクターが必要な場合はHAを入れて頂く形になると思います。でもインプット、アウトプットはAvid Pro Toolsシステムは原音に忠実でありたい。Avidのシステムはトランスペアレントなミックスが出来ますが、TASCAMのクロックもまたトランスペアレントで、相性はいいと思います。
ティアック:映像関連でCG-2000をご使用になることはありますでしょうか。
ダニエル:これまでCG-2000は常設で使っていなかったので、映像では使っていませんでしたが、オーディオ以上に映像はシンクが重要です。AvidのMedia Composerを使う場合、例えばPro Toolsで4K映像を直接再生することは出来ません。4Kで再生したい場合はPro ToolsとMedia Composerをビデオサテライトでリンクさせ同時に動かしますが、Media Composerは絶対に正しいビデオクロックが必要です。Pro ToolsはSYNC HDがあるので、クロックを入れればPro Toolsが直します。でもMedia Composerは、最初からクロックジェネレーターで正しいクロックを出さないと、シンクしません。
それには正確なジェネレーターであることが前提です。このセミナールームで私がデモで使う場合はPro Toolsから出すのでフレーム落ちの心配はありません。でも、MAスタジオなどのお客様がPro Toolsを使う場合、VIDEO IOにもシンクが必要ですから絶対にビデオクロックは必要です。
もう一つ、スリップの問題もあります。長時間の素材では30分位再生すると半フレーム程スリップする場合があります。これは停止、再生で直るものですが、特に日本のMAスタジオのお客様は正確さを求められますので、できるだけ正しく同期するシステムを入れることが重要です。例えば海外のナレーションのレコーディングなどは、シーンごとにジャンプして、その個所ごとに録音しますが、日本のテレビなどはナレーターが番組を通して録音することも多いので、日本の方がより正しいシンクが取れる事が重要だと感じます。
ティアック:昨年セミナールームがオープンされたと言う事ですが、それまでにデモなどで使っていた機器と比べてシステムの入れ替えはスムースに行きましたか?
ダニエル:はい。それまではSYNC HDからループシンクしていましたが、TASCAM CG-2000からSTAR CLOCKでクロックシンクさせるシステムに移行しても、違和感を感じなかったです。
そういえば、ProTools HD IOとMTRXのオーディオクオリティを比較するリスニングテストをする際もTASCAM CG-2000でシンクさせました。二つのシステムをフェアに比較するために同じクロックを入れました。HD I/OとMTRXの音を比較しましたが、クロックもトランスペアレントでした。その時は192kHzでテストしましたが、HD I/OはHD I/Oの、MTRXはMTRXの音を確認することができました。様々なクロックジェネレーターがありますが、TASCAM CG-2000はプリセットがあるので、便利ですね。設定が煩わしくないのはありがたいです。
サイズも1Uでラックに簡単に入るのがいいですね。TASCAM CG-2000はシンプルで使いやすくてストレスがありません。今後もInter Beeのデモなどセミナールーム以外でも活用する予定です。