インタビュー・レビュー, 導入事例
オノセイゲンさん DA-3000 インタビュー


取材:ティアック
写真:飯本貴子

ティアック:DSDフォーマットの録音をされたきっかけを教えてください。

オノ:ずっとDSD録音をやってます。SONYの業務用プロトタイプが登場した1998年頃からやっていて、SACDも2000年から制作しています。DSDに出会ってからは、少なくとも自分の作品は全部DSD録音です。僕のやりたいジャンル、録りたい音楽、自分で作りたい音楽はDSDが一番相性がいい。出会ったときに「あ、これだ!」と思いました。当時はSACDで2.8MHzなんですけどね。DSDはレコーダーの概念を覆しました。そもそもアナログのレコーダーの場合、テープレコーダーに入れる音とテープを再生した音が同じということはないんですよ。どちらが正しいかというと、プレイバックが良い音になるように録音するのが大事なんです。そもそもテープレコーダーの入力とプレイバック出力の波形は違うんです。デジタルレコーディングになり、DAWなどが普及して、みんな「クリーンだけど音楽的じゃないね」とか、「温かさがない」とか、色々言われましたけど、波形だけ見ると入力信号に近い波形が出てる。でもコンソールでラインインとテープアウト(AD/DA)を聞き比べると、音色が違うんです。PCMのデジタルレコーダーでもAD/DAされた音と、A/Dする前の入力信号も音色が違う。そんな折にDSDレコーダーの音を聞いたときに、「これは何だ?!」となり、もう鳥肌が立つほど、同じ音色でプレイバックされる。録音する前の音とまったく同じ音色で再生できる初めてのレコーダー!それ以来DSDフォーマットを採用しています。DSDの1番のアドバンテージとは、ピアニッシモや、PCMならメーターがほとんど触れない繊細な部分まで、音色、質感がそのまま記録、再生できることにつきます。



ティアック:TASCAMのDSDレコーダーについて教えてください。
オノ:TASCAM DA-88を昔から使ってました。AMS Logic2(フルデジタル・コンソール)とも組み合わせて。96年頃YAMAHA O2Rが出たときに、アメリカではフィル・ラモーン、日本では僕が広告にも出てO2Rと組み合わせて、TASCAM DA-88を4台~6台(32ch~48ch)でレコーディングしました。これでSONY PCM-3348HRでやっているワークフローがお手軽にできちゃう。PCM-3348HRはヘッド交換だけで数百万円したものですが、ヘッド交換をする値段でDA-88のシステム一式が全部買えちゃうんですよ(笑)。DA-88はHI-8のテープだから値段も安かった。PCM-3348HRのテープなんか1本5~6万円するんだけど、DA-88のテープは4千円とか3千円とか、そんなもんで、価格破壊もいいところ(笑)日本ではまだSSLコンソールとPCM-3348が業界標準と言われるシステムだったころ、アメリカではDA-88でガンガン仕事してるんですよ。その後、テープからハードディスクのDAWに移行するさなか、2001年にDS-D98が出たのかな。その時TASCAMから借りました。その理由は、とにかくDSDは音質が良い。録る音とプレイバックの音色のニュアンスが変わらない。しかも16chでそれが録れるシステムを組めるのが、あの頃はDS-D98くらいしかなくてね。


ティアック:DA-3000をご使用頂いた感想をお願いします。
オノ:僕はmeitnerのDAコンバーターを使うんですが当初は他社のDSDレコーダーも使っていました。それにも関わらずDA-3000を導入したのは、SDIF-3が付いていることが決め手でした。またDA-3000の記録メディアがCFカードとSDカードという事も要因です。HDDを使ったレコーダーの場合、HDDはディスコンになることもありますが、SDカードやCFカードは入手が容易ですし。
ティアック:DA-3000は1台からの導入でしたでしょうか。それとも当初からマルチチャンネルでの運用でしょうか。
オノ:最初は4台で8chのシステムだったかな。meitnerのシステムに合わせて導入しました。
ティアック:5.6MHzのマルチを録音されて、音質面などの印象をお聞かせください。
オノ:ハイレゾやDSDという言葉は、一般のリスナーも知るところとなり、2.8MHzより、5.6MHz、11.2MHz, 22.1MHzとスペックが高い方が音がいいと言う意見もありますが、5.6MHzはマルチトラックでも音質に妥協なく、しかも扱いやすいのです。音質、つまり再生された音色が変わる、変わらないで言うとね、結局A/DコンバータとD/Aコンバータ、マイクプリアンプなどアナログ回路の違いの方が重要で、その先はデジタルなので代わってもらっては困る。極論を言うと、マイク位置の2cmの差の方が大問題です。TASCAMの音はカラーのない音、フラット、放送局で使用するいわゆる業務用音響機器の担うべき音です。DA-3000の導入理由の一つでもありますが、業務用としての実績、信頼の歴史の中にある技術や応用が盛り込まれていた。

ティアック:使用感などはいかがですか?また、どのように使用されてきたか教えてください。
オノ:単に録音して再生するだけです。マルチでの録音だけでなく2chでもよく使います。マスタリングに持ち込まれるマスターはWAVファイルなど、PCMの素材が多いのですが、D/Aコンバータを選択して、必要な場合はアナログドメインの機材も通して、自分の好きな音に固定できた段階で、meitnerやMYTECのA/DコンバータからSDIF-3経由でDA-3000にアーカイブします。DA-3000で録音したDSDをハイレゾのマスターとします。写真に例えると一枚のネガから印画紙に手焼きで調整しながら固定するのに似ています。持ち込まれるマスターがアナログ・テープの場合は、パラでストレートのアーカイブも録ります。と言ってもアナログ・レコーダーの再生アンプのHI, LOのメータの針一本までの調整や、ケーブルでも再生音は変わりますからどこで固定するかは職人的な視点の領域です。納品がCDの場合は、44.1kHz/16BitにするためにDSDを192kHz/32bitとか、88.2kHz/32bitなどに変換してデジタルドメインで加工することも多いです。SNS用にAACにしたり、96kHz/24bitハイレゾなども同様。またオリジナルMIXのWAVファイルをD/Aする前の段階でデジタルドメインでいじることもある。全部がこうではなく、アーカイブ以外に何もしないことも多い。ハーフインチや1/4インチのアナログMIXマスターはもちろん、カセットテープやアナログレコードもまずはDA-3000でアーカイブからですね(笑)。DSDの凄いところは1/4インチテープの19cm/secとか、カセットのヒスノイズなどのリアリティまで、ノイズ成分の質感までもその通りに録って再生できるところです。カセットそのものとDSDアーカイブした音をABXで比較試聴テストしたら「どちらが好きですか?」以前に、どちらがカセットそのものか区別がつかない。それこそがDSDの良いところです。




昨年のあるコンサート録音について

ティアック:DSDマルチチャンネル録音はいかがでしょうか?
オノ:昨年あるコンサートを、DA-3000で24トラックのマルチでライブ録音しました。ミュージシャン4人、ヴォイスを入れて5人。これ最初はね、16chでやろうと思ったんですよ。でも前々日からのリハーサルしながら楽器がどんどん増えてトラック数が。。。
ティアック:足らなかったということですか?
オノ:ピアノは2台あり、それぞれ上から3本とフロアから4本目のマイク、合計8本がピアノ。そしてステージバック、ピアノ真上のキャットウォーク、2F、3F、それぞれ上手下手と空間を立体的に捉える8本のマイク。加えて4人それぞれのミキサーアウトとギターで合計24chです。DSD5.6MHzで24ch録音をやったのは今回が初めてでした。パラでSEQUOIA 14にも24ch、192KHz/24bitで回しました。バックアップで録音するためにDA-6400 をお借りして、PA卓のすべてのチャンネルをDA-6400で48トラック録音しました。ミキシング時にシンセサイザーをそれぞれ単独アウトを調整することができた。
ティアック:DSDでの24ch録音は初めてとの事ですが、普段は大体何chくらいで録音されているのですか?
オノ:これまでは16chです。2chのマスタリングでは頻繁に使ってて、ベーシックな録音では8chで完結するものもあります。僕がレコーディングを始めた80年頃は、いかに音楽を16chとか24chにまとめられるかでした。そういえば、この『Seigen Ono Septet 2003 LIVE』(SACD Mullti-ch/Hybrid)は、ブルーノート東京で16本のマイクを8台のTASCAM DS-D98で録音して、GML HR-9100アナログ・ミキサーで仕上げたアルバムです。ピーター・バラカンさんがホストのWOWOWの番組ではこのSACD MIXをダウンコンバートした音にライブ映像を貼り付けてます。一方で、日本のコマーシャルスタジオは、SSLコンソールにSONY PCM-3348(48ch)、そしてProToolsへと発展しましたが、制作現場では選択肢が増えていくだけで、その場での判断力はどんどん欠如していったと思います。最後は2chにミックスしなければいけないのに、ドラムのマイクだけで12トラックとか。ソロボーカルのトラックばかり5chとか(笑)。時代がDAWになってからは、スリルがなくなり、音楽が生まれる瞬間を捉えるというよりも、修正作業とか選択肢だけどんどん増えて時間がかかりすぎると思います。技術は進歩してるのに、制作にかかる時間イコール制作費が増えていくというなんだかパラドックスを感じます。もちろんアニメやゲームのようにゼロから非現実空間を創り出すにはトラック数は無制限に欲しいのもわかります。
ティアック:では24chのDSD録音を体験してみていかがでしたか?
オノ:24ch録音はとても良かった。2011年にAURO 3Dのデモンストレーターをやっていましたが、ピアノトリオを10chのスピーカーに対応した10本のマイクでダイレクト録音をしました。現実の空間をリアルに立体的に録音して再現するには、スポットマイクも含めると24chあるととても便利です。次は48chでも録音してみたいです。
ティアック:48ch(笑)
オノ:映画の世界では300chなどありますが、ゲーム、映画、アニメなどそもそも(現実そのままではなく)加工、デフォルメして作り上げる空間の制作はPCMのDAWに限りますが、最初に演奏ありきという場合は、そこまでの選択肢はむしろない方がいい。演奏する方も、何回でもトライできるという気分からはいい音は聴こえてきませんよ。心に響く演奏は一回だけでいいんです。なんちゃって!(笑)
ティアック:なるほど(笑)
オノ:とは言え、録音なんて所詮2chでもなんでもヴァーチャルですから。で、現実にできないことを作り出せるのも録音なんですね。僕がまだ使ってなかった機能で、DA-3000はカスケードすればダビングが出来る!って知らなかったんです(笑)近々、サックスの一人4重奏でもプロデュースしてみようかな。映像の世界では4K、8KやVR、ARが盛んにアピールされていますが、DSDなら自然なつながりを含めて、それにふさわしい質感、現実以上にナチュラルな空間体験ができる音ができると思います。

ティアック:これからのDSDのレコーディングに対し期待することなどありましたら教えてください。
オノ: DSDっていうのはマスターレコーダーなんです。昔だったらハーフインチです。ハーフインチのレコーダーにミックスを全部録る。それに代わるものがDSD。だからDA-3000がマスターレコーダーとしてマルチ録音だろうと2ch録音だろうと、DSD録音に固定した段階で安心しています。DSDにさえ録っておけば聴こえている音は全部入ってますよということ。シンプルに録って再生する場合などにはDSDが好きです。あとは利用するフォーマットに合わせてPCMでダウンコンバートすればいいのです。現実にできないことを作り出せるのも録音という視点で重大なこと。それは、レコーディングとはタイムマシン体験である!現実に起こった事象の時間軸を入れ替えたりして、文脈を変えてしまうことができるのです。任意の過去の時空間に戻ることができるだけでなく、5日間のライブからいいテイクだけを切り出したり、ある曲のイントロだけ別のテイクに編集したりすることで、実際のライブではありえなかった時間軸に編集すると、記憶に残るベストな部分だけをマスターアーカイブとして永遠の記録として残すことができます。僕のライブ盤『Montreux 93/94 / Seigen Ono』の1曲目なんかはイントロだけ94年のものです。これをDSDでマルチトラックで録っておきたかった。

ハイレゾのプレーヤーが10万台売れたら、リスナーが聞くためのソフトが必要で、そのためにレコーダーが必要になるわけですが、レコーダーが必要なのは1万人に1人くらいでしょ。でもいいソフトが制作できないことにはオーディオ業界も音楽業界も無くなります。DSDレコーディングでは、エフェクトやプラグインなんか不要なのです。シンプルに2chまたは、24トラックくらいの編集機能があれば充分なのです。お金を出すメーカー、業務用サポートのメーカー、コンシュマーマーケティングのメーカー、中身の技術を開発するメーカー、共同で共通のDSD編集ソフトを作ってGUIとブランドだけ各社で変えればいいと考えます。






プロフィール

プロフィール写真:國崎晋

オノセイゲン
録音エンジニア/ミュージシャン

1984年にJVCよりデビュー「SEIGEN」、87年に日本人として始めてヴァージンUKより「The Green Chinese Table / Seigen Ono」、コム デ ギャルソン 川久保玲から ”誰も聞いたことのない音楽” ”洋服が奇麗に見えるような音楽を” という依頼により、ショーのためのオリジナル楽曲を作曲、制作。アート・リンゼイ、ビル・フリゼール、ジョン・ゾーン、フレッド・フリスら、80年代のNYダウンタウン・シーン最精鋭たちが結集した「COMME des GARÇONS SEIGEN ONO 」(1988年)は、ファッション、広告、建築、デザイナーのあいだで話題となり、アヴァンガルド・クラシックとして再び注目されている。「Maria and Maria / Seigen Ono」ほか多数のアルバムを発表。 ニューヨーク、サンパウロ、リオデジャネイロ、パリ、ミラノ、東京で録音された「Bar del Mattatoio(屠殺場酒場) / Seigen Ono」はカエタノ・ヴェロ-ゾが寄せたライナーノーツも話題となる。

録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」、清水靖晃「うたかたの日々」、渡辺貞夫、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、マイルス・デイビス、キング・クリムゾンなど多数のアーティストのプロジェクトに参加。アナログコンソール時代からDAW、最新のVR、ARのための立体サラウンド(イマーシブ)まで制作現場を熟知。2011年はGALAXY Studio (ベルギー)のゲストエンジニアとAURO 3Dの音楽録音のプレゼンター、1999年 SONY サンプリング・リバーブDRE-S777などの開発、またフィル・ラモーン、ジョージ・マッセンバーグのインタビューなど専門誌の執筆、技術共同開発なども手がける。

オノセイゲンさんの音源
Seigen Ono Ensemble『Seigen Ono Ensemble Montreux 93/94
(1993年と1994年、2年続けてスイス、モントルージャズフェスに招聘され、SONY 「PCM-3324」で収録されたマルチを一口坂スタジオ、Neveコンソールでハーフインチにミックス。NYC スターリングサウンド、Ted Jansenがマスタリング。)


Seigen Ono Septet 2003 Live
(2003年ブルーノート東京にて、TASCAM DS-D98を使用してDSDフォーマットで録音された音源)





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