録音技師 落合氏が語る 小型フィールドレコーダー「FR-AV2」が支えた、祈りの音の再現技術について
2025年2月26日から3月4日にかけて金沢21世紀美術館で開催された展覧会「祈りの音(とき)を聴く」において、東北と能登の人々の祈りについての展示に、TASCAMの小型フィールドレコーダー『FR-AV2』が使用されました。
今回の企画は、演出家、俳優、映画監督の岸 建太朗氏、録音技師の落合諒磨氏、クラフトデザインを担当されたふじいたいき氏による考案のもと、能登半島地震で破損した珠洲焼の水瓶に現代の音響テクノロジーを用いて、“新しい水琴窟(すいきんくつ)※”の形を創造し、音の造形が生み出されました。水瓶の中で水滴が反響する繊細かつ静かな音を「FR-AV2」で録音・再生。静謐(せいひつ)な空間と、その響きを忠実に再現するという試みを手掛けられた録音技師の落合諒磨氏にお話しを伺いました。
※地中に埋めた壺に水滴が落ちて反響することで、琴のような澄んだ音を楽しめる日本庭園の音の仕掛け
選定理由:小型・高音質・高信頼性
まず落合氏は、機材選定の条件として以下の3点を挙げています。
これらすべてをクリアしたのが、TASCAMの「FR-AV2」でした。過去に「DR-100MKIII」などを使用してきた経験からも、TASCAMの信頼性が選定理由の一つと語ります。
高音質マイクプリアンプが支える原音に忠実な音質再現
FR-AV2に搭載された高品位マイクプリアンプ「Ultra HDDA」は、TASCAMの据え置き型の機材にも使用される高品質なマイクプリアンプを搭載。小型でありながらその音質を落合氏は評価しています。「今回はミニチュア・マイクロホンDPA CORE 4060(LEMO端子)を使用し、変換アダプタでXLR入力に接続。水琴窟特有の琴のような高音が、耳で聞いたときの印象に近いかたちで再現されていました。水琴窟には含まれない低域の確認はできませんが、小型レコーダーにありがちな音の薄さもなく、中・高域のクリアさとリアリティのある音質に満足だった」と落合氏は言います。
限られたスペースに対応できる小型ボディと安定動作
“どこから音が鳴っているのか分からない”という演出のため、水瓶内部に設置されたマイクのケーブルやスピーカーの設置も隠す必要がありました。レコーダー本体も来場者から見えないように隠す必要があったため、機材のコンパクトさが重要でした。その点でもFR-AV2のサイズ感は大きな武器となりました。
また、電源はモバイルバッテリーをメインに、予備として本体のリチウム乾電池も併用。約12時間の展示運用にも安定して対応しました。
来場者から音源リクエストの声も。音源の配信にも活用。
展示では収音した音声をスピーカーで流すのみでしたが、来場者からは「録音したかった」、「また聴きたい」、「音源を送って欲しい」といった声が多く寄せられました。その反響を受け、同時企画で行われた音楽ライブ参加者向けに、FR-AV2で録音した音源を別途配信したとのことです。
高音質音源
音質・運用性・コストパフォーマンスに満足
落合氏はFR-AV2の使用感について、以下のように評価しています。
フィールドレコーダーとして利便性の高い、ワイヤレスモニタリング機能
FR-AV2に搭載されたBluetooth®ワイヤレスモニタリング機能*についても落合氏から「本機能は今回の展示では使用しておりませんが、収録現場においては、クライアントに試聴いただく際のワイヤレスモニタリング環境をオールインワンで実現可能な点にも利便性を感じる」と高く評価をいただきました。
*別売のBluetooth®アダプター AK-BT2を使用
製品情報
公式サイト
K-zone. “祈りの音(とき)”を聴く ~Listen to the Sound of Prayer~
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=25&d=2140
プロフィール
落合諒磨
現場録音 / 整音 ~MA
茨城県出身。日本大学芸術学部映画学科録音コース卒業。
現在はフリーランスとして、webCMや広告媒体を中心に撮影時の現場録音、整音~MAで活動中。
近年では『奄美大島世界遺産センター』内の特設展示に携わり、島内の森の環境音や動物たちの鳴き声を1年間に渡って収録するなど、フィールドレコーディングの分野にも参加。
他に、インスタレーション企画『“祈りの音(とき)”を聴く〜Listen to the Sound of Prayer』(2025.2.26-3.4 金沢21世紀美術館にて初演)など。
WEBサイト :https://ryomaochiai.com/