様々な録音制作を行っている生形三郎さんに、DR-100MKIIIを使用した収録についてレポートして頂きました。
ハンディタイプのPCMレコーダーを探している方で、出来る限り高音質で録音したい人、外部マイクを使って2chだけでよいから高音質でモバイル録音したい人、それも失敗が出来ない大切な録音に使用したい人にとって、DR-100MKIIIは間違いなくベストな選択肢ではないでしょうか。
ハンディタイプにしては非常に贅沢な仕様であることは製品特徴ページに譲りますが、そのスペックに裏打ちされた高音質と使用感を、実際の録音サンプルとともにご紹介したいと思います。また、失敗が出来ない録音にとって、動作の堅牢性や柔軟な操作性は必要不可欠です。DR-100MKIIを以前から使用していた自身にとって、MKIIIになってその向上が充分に体感できたので、その辺りも重点的にご紹介します。
何よりもまずDR-100MKIIIにおいて特筆すべきは、バージョンアップを重ねているからこその実力ではないでしょうか。継続して開発されてきた製品というものは、それだけの蓄積が含まれているという事実に加え、確実な人気と需要があって存在しています。このDR-100MKIIIを使って一番大きく実感したのはその部分です。
文句無しの録音性能
内蔵マイクの音質ですが、マイク間が少し離れて設置されていることで、時間差が生まれるので、小型レコーダーながら自然なステレオイメージが得られます。
これは初代からのアドバンテージですが、今回さらにマイクプリアンプやAD回路、そしてデジタル録音機の要となるクロック部が改善されたため、音質の大幅なグレードアップを実感しました。テスト録音音源を聴いて頂ければお分かりと思いますが、特にハイレゾでは、録っただけでも録音物としても充分に通用するクオリティではないでしょうか。これは逆に、録音というものが決して使用機材スペックやシチュエーションだけで成り立つわけではない、ということを、いろいろな意味で改めて実感させてくれました。
ピアノの高音域は音圧が高く、小型のレコーダーでは音が歪んだり潰れてしまう場合もありますが、近距離から録音しても何も問題ありませんでした。ドラムセットも同様です。ドラムの録音では、敢えて前身のDR-100MKIIと同じ環境で録り比べてみましたが、その差は歴然でした。
ピアノ音源
演奏者:塚谷水無子 http://www.minakotsukatani.net
使用楽器:ベーゼンドルファー モデル290インペリアル
収録場所:ベーゼンドルファージャパンスタジオ http://boesendorfer.jp/
ドラム音源
演奏者:矢壁アツノブ氏 https://twitter.com/kamelefty
使用楽器:Pearl Reference PUREシリーズ
収録場所:リンキィディンクスタジオ荻窪 http://www.rinky.info/studio/ogikubo/
また、今回新たに内蔵マイク部にショックマウントが追加され、本体からの振動が軽減されているのも大きなポイントで、使用シーンが大きく広がったと思います。「山車の曳き回し」の録音は、手持ちで行ないました。
花火音源 1
収録場所:片貝まつり花火(新潟県小千谷市)
収録日時:2016年9月9日、9月10日
協力:片貝町煙火協会 http://katakaimachi-enkakyokai.info/
外部マイクを接続しての録音も行なってみましたが、こちらも、音質とともにS/N性能の向上に驚かされました。今回は4尺玉花火という、重低域成分を含むインパルス的で収録が難しい音を録音してみましたが、現場から戻り、作業環境のラージモニタースピーカーでプレイバックしても、その情報量と音質に物足りなさは感じませんでした。先ほどのドラムセットは外部マイクでも録音を行なってみましたが、音楽制作のミックス素材として、そのまま使用できる音質と感じます。
花火音源 2
3代目ならではの操作性と安心感
外観や使い勝手の部分では、非常に多くの部分で「扱いやすさ」と「安心」を感じました。
まず、フロントパネルのボタン類です。リミッターのオンオフや、新たに設けられたパッドスイッチ、録音レベルの調整スイッチなどは、素早くアクセスできることに加え、すぐに眼で見て確認することができるので、設定ミスが避けられます。ストップボタンに凹みが付けられているのも、不用意な停止を防げて安心でした。さらに、ファンタム電源スイッチがジャックの側に設けられたことも非常に有難いです。また、入力レベルインジケーターも重宝します。入力の有無やレベルの高低が一目瞭然で、状態確認がより楽になりました。ライン/マイクの入力ジャックも信頼性の高いコンボジャックに変更され、より柔軟な接続が出来るので、ライブコンサートなどでの据え置き機材のラインバックアップも、コネクタ変換なしで繋ぐことが出来るようになりました。SDカードジャックが両マイク間から本体右側面に変更になったことも、内蔵マイク使用時には嬉しい仕様です。カードの入れ替えの度に、ウィンドジャマーなどを外さなくて済むからです。単3乾電池へのアクセスも、側面に変更されました。これらの変更により、本体の底部は、カメラ三脚用の取り付け穴のみになり、三脚固定時でも容易に電池交換が可能です。同時に、本体底部のお尻の部分に、Recランプが追加されていることにも気づきます。これにより、DR-100MKIIIを三脚で高所に設置している場合にも、Rec状態を確認できます。本体内部は、ディスプレイが大型化されたこと、日本語対応になったこと、プロセッサーの向上により処理速度が改善されたことにより、旧モデルよりも快適な使用感が得られることも重要なポイントでした。加えて、外観的なデザインも洗練されたと思います。忘れてはいけないのが、ストラップホルダーが付いたことです。これにより、非常に現場での取り扱いが楽になりました。私は、HAKUBA製のカメラ用ストラップを付けて本機を使用しています。
以上のように、操作部周りにも細やかな配慮が随所に見られます。これは、多数のユーザーフィードバックの蓄積による、継続的な開発が成せる業でしょう。
堅牢な動作と充実のバッテリーライフ
レコーダーは、動作の堅牢製に加えてバッテリーライフも重要な部分です。まず、動作の安定性に関しては、非常に安定していると感じます。今回4時間ほどに及ぶ花火祭りを2日間、ともに192kHz/24bitで録音しましたが、録音停止などは勿論、反応が不安定になるなどは一度もありませんでした。ドラムやピアノの録音でも同様です。小型のレコーダーであっても、放送局の生放送用システムなどへの採用実績も多いTASCAMの技術が、しっかりと反映されているのではないでしょうか。
モバイル機器はバッテリーライフも重要です。実は、これまで使用していたDR-100MKIIは、内蔵バッテリーが劣化してきたこともあり駆動時間が短くなってきて、出番が少なくなっていました。特に、48V電源の供給が必要な外部マイクの使用時の、ハイレゾ録音時に顕著でした。しかしながらDR-100MKIIIでは、高性能になっているのにもかかわらず、消費電力を抑えてバッテリーライフが大幅に長くなっていることも見逃せません。単3型のエネループを入れて使用し、192kHz/24bitフォーマット録音で、48Vのファンタム電圧を外部マイクに送りながら4時間ほど録音しましたが、それでもまだ乾電池に余力が残されていました。内蔵のリチウムバッテリーは満タンです。これには驚きました。本体裏側の三脚穴に取り付けるタイプの純正電池ボックス『BP-6AA』を用意して現場に行きましたが、不要でした。この電池ボックスも非常にジャストサイズな設計となっており、三脚穴を使って本体にしっかりと固定できることに加えて、さらにその状態で三脚に取り付けることも出来るので、非常に便利なものです。
DR-100MKIIには、汎用のモバイルバッテリーを繋いだりもしましたが、サイズも合わず固定も出来ないので、すぐに使用をやめてしまいました。こういった純正品があることは、フィット感が肝となるフィールドでの使用においては、非常に有難いことです。加えて、電源ソースを、内蔵リチウム電池と単3電池とで切り替えられることも見逃せないポイントでしょう。内蔵リチウム電池は本体内部に設置されているため、ユーザーでは交換ができません。しかしながら、普段は単3電池を優先ソースに使用しておき、なるべくリチウム電池の使用を避けることで、充電容量の劣化を最小限に抑えることができます。また勿論、長時間録音時には、乾電池のホットスワップが出来るので、非常に安心便利な設計です。
以上のように、仕事でも趣味でも、本当に手放せないレコーダーとなりました。最大192/kHz/24bitで高音質な2ch録音が出来るモバイルレコーダーとして、非常に優れた製品と言えます。
プロフィール
生形三郎 氏
音楽家/オーディオ・アクティビスト
「音」に関して「音楽」と「オーディオ=録音と再生」の両面から取り組む音楽家。作曲、録音制作、CDやハイレゾ作品リリース、コンサート企画、サウンド・インスタレーション制作、録音技術を用いたワークショップ、オーディオ雑誌や音楽誌(Stereo、レコード芸術、デジファイ、ヘッドホン王国など)での評論や執筆、録音/オーディオ書籍の執筆(デジタル録音入門 / 音楽之友社)など、広く活動する。最近の録音制作に「究極のオーディオチェックCD 2015~ハイレゾバージョン」などがある。
ホームページ:http://saburo-ubukata.com/
矢壁アツノブ 氏
1960年東京都出身。1979年に「ビブラトーンズ」のドラマーとしてプロ活動開始。1984年〜88年「PINK」’89年〜’92年「HALO」(福岡ユタカとのユニット)現在はデビュー当時より続いていたスタジオ、ツアー・ミュージシャンとしてProTools(プロツールス)オペレーター、作詞、作曲、編曲家として活動中。
主な参加アルバム:
井上陽水、沢田研二、橘いずみ、大沢誉志幸,谷村新司、他多数
主なライブサポート:
戸川純、大沢誉志幸、吉川晃司、吉田美奈子、橘いずみ、他多数
塚谷水無子 氏
東京藝大楽理科卒業後オランダへ。 パイプオルガン・作曲・即興演奏をヨス・ファン・デア・コーイに、 ピアノと室内楽をヴィム・レーシンクに、 チェンバロをロベール・コーネンに師事。 アムステルダム音楽院、デンハーグ王立音楽院修士課程を首席で卒業。 17年にわたりロイヤルコンセルトヘボウ、オランダ国立歌劇場はじめヨーロッパ各地のコンサートに出演、委嘱作品の世界初演も数多く手がける。 NHK FMやインターネットラジオ「OTTAVA」の番組出演はじめ、 国内外の新聞雑誌インタビュー多数。 古楽から現代音楽、ジブリまでレパートリーは多岐にわたる。 日本人初のパイプオルガンによる録音のCD《ゴルトベルク変奏曲》、 演奏至難のポジティフオルガンによる《ゴルトベルク変奏曲》(Pooh’s Hoop)は日経・音楽之友社各誌で絶賛。長年のオランダでの演奏家体験を織り交ぜた、 鍵盤楽器のスペシャリスト塚谷ならではの新感覚エッセイ 「ゴルトベルク変奏曲を聴こう!」(音楽之友社)を出版。