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録音会をどうしてもやりたかった理由 ~ティアックレコーディングクラブ活動報告~

タスカムピアノコンサート生録会

 

2023年12月9日(土)、輸入ピアノ.comさんにて、ピアニスト野上真梨子さんをお招きし『ティアック Presents タスカムピアノコンサート生録会 vol.1』と題した録音会をおこないました。野上さん、輸入ピアノ.comさん、ご参加いただいたお客様にはあらためてお礼申し上げます。

 

タスカムピアノコンサート生録会 録音会の様子
タスカムピアノコンサート生録会 録音会の演奏中の様子

録音会の様子

 

録音会の熱気再び

かつてオープンリールデッキが全盛期だった時代はオーディオメーカーがそれぞれ録音会を開催していました。大きなホールを借りて、参加者は1台10数キロはある、あの重たいオープンリールデッキやマイクなどたくさんの機材を持ち込んで、生バンド演奏の録音を楽しまれていたようです。当社にもその記録は残っており、その規模から当時の録音会は、とても熱気あふれる様子だったことがうかがえました。
時代は移り、こうした録音会の情報が聞かれなくなって久しい昨今、いつか当社の主導で録音会をやりたいと思っていましたが、今回輸入ピアノ.comさんの協力を得て、ついに実現することが出来ました。
国内外のピアノの銘品を数多く取り揃えた輸入ピアノ.comさんでの録音会は今の時代に沿った催しになるのではないかと企画段階からワクワクしました。

 

開催までの道

昔の録音会の写真を見るとホールを埋め尽くすマイクやレコーダーから、誰もが最適な場所で録音したい、自慢の機材を試したいという熱気を感じました。録音における一番重要なポイントはレコーダーを設置する場所です。特にピアノはデリケートな素材なため、今回のコンサートにおいては、しっかりとルールを決めて不公平にならない様にしなければいけないと考えました。その結果、座席は抽選方式とし、自席の前でセッティングが可能な録音機材を持ち込んでいただくよう呼び掛けました。限られたスペースでの録音ということで必ずしも思い通りにいかない録音になる懸念はありましたが、ベストポジションは当社が抑え、参加者の皆様には当社が録音したデータをダウンロードでご提供させていただくこととしました。

会場イメージ会場イメージ

 

録音レベル設定コーナー

録音会の進行にも工夫をしました。
通常のコンサートにおいて事前に適切な録音レベルを設定することは簡単なことではありません。
野上さんにはあくまでも普段のコンサートのように演奏をしていただきたいと思いながらも、参加者には録音を失敗してもらいたくないという考えもあり、あえて本番前に録音レベルを設定する時間を設けました。開会のあいさつの後、録音レベル設定のコーナーへ進み、一旦野上さんに登場いただき、本番を想定したピアノの音出しをしてもらいました。参加者は一様にヘッドホンでモニターしながらレコーダーのレベルを凝視し真剣な面持ちでレベル調整をしました。皆様の準備が整ったところで、野上さんに改めて登場していただき、コンサートが始まるという流れです。普段のコンサートではありえない進行でしたが、野上さんも快く引き受けてくださり、スムーズに会は流れていきました。

 

選曲のこだわり

録音会では選曲もこだわりました。演奏を録音する醍醐味はテンポが速い曲や遅い曲、音量もピアニッシモからフォルテッシモまでレベルに緩急がある曲を表情豊かに細部まで余すことなく高音質で捉えることです。

野上さんは録音会の趣旨を踏まえた上で、時代や作品が異なるバラエティに富んだ選曲をしていただきました。

当日のセットリストは以下の通りです。
・プロコフィエフ:前奏曲 作品12-7 「ハープ」
・ドビュッシー:喜びの島
・ショパン:ノクターン第2番 作品9-2
・ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 作品27-2 「月光」
加えてアンコールではショパンの「子犬のワルツ」を演奏していただきました。

余談ですが録音会が開催された12/9はミュージシャンであるジョン・レノンの命日に近いということで、彼が「BECAUSE」を作曲した際にインスパイアされた逸話を持つ「月光」をリクエストしました。 3つの楽章それぞれ表情が異なる「月光」は静かな第1楽章ではピアノのそのものの余韻を、圧倒的なパッセージの第3楽章は力強いダイナミクスレンジを感じる事ができます。 この幻想的な曲を表現力豊かに奏でる野上さんの技量に感嘆し、ピアノ録音を楽しむには至高の楽曲と思わせる演奏でした。

ピアノのセッティング
録音機材我々の録音機材とセッティング

 

■使用機材

録音機: TASCAM Portacapture X8
マイク: NEUMANN U87Ai、DPA 4006
ケーブル: KLOTZ MC5000

Portacapture X8はマニュアルモードで6トラックをフルに活用し、内蔵マイク、NEUMANN U87Ai、DPA 4006、に2トラックずつを割り当てました。
クラシックの演奏会などでは、響きを録音するため、ホールなどの天吊りマイクの音を分けてもらうことが多いのですが、今回はその天吊りマイクに見立て、会場の後方からDPA 4006を高い位置に設置して響きを狙うこととしました。芯になるメインはNEUMANN U87AiとTASCAM Portacapture X8の内蔵マイクで狙います。

Portacapture X8Portacapture X8
DPA 4006DPA 4006

 

Portacapture X8は別売のアダプター『AK-BT1』を追加すれば、スマホとのBluetooth接続で制御や監視が可能になります。ひとたび演奏が始まるとステージに上がることはできませんので、このような現場では大変重宝します。

リモートアプリ『Portacapture Control』リモートアプリ『Portacapture Control』

 

Portacapture X8の製品情報はこちら Portacapture X8のお求めは ティアックストアで

 

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32ビットフロート録音 6トラックポータブルレコーダー『Portacapture X6』

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~ダブル主演~

録音会のもう一つの目玉であるピアノは 1968年製のニューヨークスタインウェイモデルB (長さ211cm)でフルオーバーホール済みの貴重なものを用意していただきました。普段お目にかかれないピアノの音が聴けることはこの録音会ならではです。このピアノはもう一人の主役と言っても過言ではなく、野上さんとダブル主演のように感じました。
輸入ピアノ.comさんには、他にも多数のビンテージピアノが展示されており、まるで芸術的な美術作品が並んでいるようです。またレッスンを行う傍ら、ショールームにてミニコンサートも開催されています。貴重な音にも触れあえ、スタッフのみなさんがフレンドリーでとても居心地のよい空間です。

輸入ピアノ.com さんの詳しい情報はこちら
https://www.imported-piano.com/index.html

 

録音会への思い

録音会は大盛況のうちに終了しました。
お客様からも
「自分の録音音源と、ティアックが録音した音源を比較してマイクの種類やポジションの違いが判り、貴重な生録音源を手にすることが出来た。」
「同じ会場で録音しながら、録れた音がかなり違うことに驚き、感動した。」
「期待を大きく上回り、大変満足している。費用が倍以上になっても良いのでまた開催してほしい。場所は輸入ピアノ.comで良いと思う。いろんなピアノの音を聞きたい。」
「真近で由緒あるピアノを野上さんの演奏で聴かせていただき、スピーカーでは感じる事の出来ないピアノの生音の大きさも実感できて貴重な体験でした。」
など大変好意的な感想を多数いただきました。

今では録音機はデジタル化され高音質になり、小型で持ち運びも便利になりましたが、それ以上にスマートフォンの進化がめまぐるしく、動画撮影が簡単にできるような時代になったことで録音を楽しまれる方はすっかり少数派となってしまいました。それでも音への飽くなきこだわりを持ちつづける皆様の支えがあって我々は今日も録音機の製造販売を続けてこられています。
普段の録音機器の販売プロモーションでは、鉄道録音や野鳥録音、フィールドレコーディング、音楽の練習、発表会の録音、会議録音、ASMRなど用途毎にお客様へご提案はしていますが、かつてのようにプロの演奏を堂々と録音する機会をご提案し、製品の能力を存分に体験してもらうことができていないことが気がかりで仕方ありませんでした。今回その思いが叶い、録音会が行えたことは非常にありがたく感謝の気持ちでいっぱいです。今後もこの活動を継続していけるよう努力したいと考えておりますので、よろしくお願いします。

 

野上真梨子さんプロフィール
野上真梨子さん

桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学音楽学部を共に首席で卒業。ベルリン芸術大学大学院修了、同大学にて国家演奏家資格を取得。日本各地、ドイツ、ポーランドでリサイタルを開催。これまでに、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団等多数のオーケストラと共演。2007年公開の映画《ピアノの森》で“誉子”役のピアノを担当。同サウンドトラックCDがソニーミュージックから発売されている。

受賞歴
· 第8回青少年ショパン国際ピアノコンクール(ポーランド)日本人初の第1位
· 第4回北本コンクール高校生部門第1位ならびに全部門通じての《最優秀賞》
· 第16回、第17回ショパン国際ピアノコンクール (ポーランド) ディプロマ。
· 第1回いしかわ国際ピアノコンクール大学・一般部門金賞ならびに2つの審査員特別賞と邦人作品演奏賞。
· 第5回野島稔・よこすかピアノコンクール第1位
· アルトゥール・シュナーベルコンクール (ドイツ) 第2位

野上真梨子さんSNS
YouTube : https://www.youtube.com/@mariko_nogami
X (旧Twitter): https://twitter.com/mariko_nogami

 

~生録会が終わって~

せっかくの機会なので、生録会終了後に野上さんの演奏を単独で録音させてたいだきまた。 その時の動画が野上さんのYouTubeチャンネルで公開されていますので、ぜひ、ご覧ください。

Prokofiev: Prelude Op.12-7 " Harp" | プロコフィエフ:前奏曲 作品12−7 "ハープ"

 

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