神戸の老舗ライブハウス「チキンジョージ」に、DA-6400が常設のマルチトラックレコーダーとして導入され、2015年12月に同会場にて行われた「T-SQUARE "YEAR-END SPECIAL 2015"」のライブの収録に使用されました。
この収録について、チキンジョージ・エンタテインメント代表の間瀬場さん、エンジニアの正木さんに導入の経緯や運用についてインタビューにお答えいただきました。
まず、DA-6400の導入に至った背景を教えてください。
間瀬場さん(以下敬称略):昨年からライブハウス チキンジョージ代表の児島と、ライブレコーディングが出来るシステムを常設しようと話し合いをしていて、当初はDAWでやろうと思っていました。ただ、コンピューターベースのDAWだと録音時には別途人を付けないといけない。これはライブハウス運営上マイナス要素で、そこをどうにか解決できないかと考えていた時にDA-6400のことを知って、1Uサイズというコンパクトさ、ボタン一つで録音が開始できること、何より専用単体機で信頼性が高いことから候補に挙がりました。コンピューターはどうしてもOSに依存するところがあるし、内蔵のハードディスクも何か起こると録音できていないといったことも起こり得ます。良くあるシステムとしてコンピューター上のDAWがメインで、マルチトラックレコーダーをバックアップに回しますが、そうではなくて、「安心できる方をメインレコーダーに」という思想で導入に至りました。
信頼性の高さでご導入頂いたということですね。その他にもレコーダーとして重視されていた部分はありましたか?
間瀬場:実は24bitで録音できることもDA-6400導入の大きなポイントでした。やはりライブレコーディングはダイナミックレンジが広くないとダメだと考えています。24bitでないと実際の「ライブ感」は録れません。16bitのレコーダーを回した事もありますが、聴いてみるとやはりライブにおける臨場感に欠けてしまう。24bitで、専用機が無いか探している時にDA-6400にたどり着いたという側面もあります。やはりライブハウスなので、出演するアーティスト側からの録音の要望はありますし、24bit/ 96kHzマルチトラック録音であれば後のデータ汎用性も高いとも思いました。アーティスト側にシステムを持ち込んでもらったりするのも何かと大変なので、常設で置いてしまえば良い、という考え方です。
実際にお使い頂いて、感触はいかがですか?
間瀬場:安定性の高さが非常に良いです。音質的にも全く問題ありません。
正木さん(以下敬称略):一番は、「ラク」だということですね。操作に関しても、演奏が始まる前に録音ボタンを押して、ステージが終わったらストップボタンを押すだけという感覚です。今回はアナログコンソールからMADIコンバーターのDirectOut Technologies 『ANDIAMO 2 AD』を介してDA-6400に入力していますが、それでも2Uのスペースでシステムが完結していることも非常にポイントが高いと思います。
間瀬場:DAWでやるとしてもデスクトップではなくてノートパソコンで動かしたいと思っていたくらい、ライブハウスに於いてはやはりスペースファクターが重要です。また、例えばここから持ち出して他の現場で動かしたいという際にも2Uなら全く問題ありません。
普段の運用フローについて教えてください。
間瀬場:本番のステージを、DA-6400をメインレコーダーとして収録し、本番終了後に事務所にあるDAWに吸い上げてデータのチェックやラフミックスをします。データの移動はDA-6400からSSDケースを外してそのまま持ち運びするだけなので、この点もかなり手軽で気に入っています。24bit/96kHzで収録している32ch分のデータになりますが、SSDをコンピューターに接続したらドラッグアンドドロップでコピーするだけなので、非常に簡単です。
正木:本番の2ステージを収録したとして、長い場合でも100GBくらいの容量なので、現状240GのSSD1台で問題無くやりくりできています。今回のT-SQUARE公演ではバックアップとしてもう1台のDA-6400を使用しましたが、メインのDA-6400のMADIスルーアウトから送っているのでフォーマットもセッティングも全く同じ状態でバックアップができました。
間瀬場:運用してみて、非常にストレスの無いシステムだと感じています。我々は自社でも音源制作や配信も行っていますので、今後もこのステージでの収録をこのシステムで行っていきたいと思います。
是非今後もご活用ください。ありがとうございました。
T-SQUARE 伊東たけしさんインタビュー
今回のライブ収録にあたり、チキンジョージにてT-SQUAREのメンバーである伊東たけしさんにもインタビューにお答え頂き、ハイレゾでの収録についてお伺いすることができました。
今回の収録は、全て96kHz/24bitというレゾリューションで行われています。いわゆる「ハイレゾ音源」となりますが、アーティストという立場からどうご覧になっていますか?
伊東さん(以下敬称略):個人的には、今までの44.1kHz/16bit基準がおかしかったと思います。今はスタジオでの収録でも96kHz/24bitが基本で、やはり空気感というか、音楽的にも音響的にもある程度納得いく状況にやっと今なってきたと感じています。「ハイレゾ」という言葉は出てきていますが、これまでアナログ機器の最高の時代でやらせてもらって来て感じることは、当時は作者の意図、演奏者の想いがしっかりそこに作品として残されるような器があったこと。それと同じで、ハイレゾを考えた時に、特別に「ハイレゾ」と言わずともこれがスタンダードになる方が僕は正しいと思っています。
ライブ演奏をハイレゾで収録する、ということに関してはいかがでしょうか。
伊東:ライブ収録という点では、ハイレゾでこんなに安全に、DA-6400で何のストレスもなく録れるというのはある意味時代かな、と。こういう製品が世に出てくるのはありがたいです。スタジオはもちろんライブ収録でもDAWがスタンダードとして使われているけど、パソコンベースで、他にも色々なことができる中でDAWソフトを動かすのと、それに特化した録音機材で録るのではやはり差があって、要らぬところでバグったりしない、そのあたりの安心感はとっても僕らにとってありがたいことです。ここのところのデジタル機器の進化は素晴らしいと思っていて、やっと僕らミュージシャンやアーティストにとって『話ができる』状況になったと感じています。
『話ができる』状況、というのは具体的にどのようなことでしょうか。
伊東:アナログ全盛期は、オーディオと音楽というものが一緒になって発展してきて、リスナーも一緒に成長してきたと思います。一方で、デジタルは必ずしも常にそうではなく、僕らミュージシャンや制作は進化しているけど聴く側が乗ってこないとも感じた時代がありました。例えばMP3に走ってしまった部分など、デジタルの利点が物事を便利にする方向に膨らみ過ぎたばかりに、あまりにも音そのものに対するエネルギーが他の部分に削がれてしまって、肝心の「音」がどんどん劣化することが起きてしまったと思います。でも、例えばハイレゾ収録を確実にできるといったことが実現し、ここに来てやっと「音」を戻せた、という意味で『話ができる』と感じていて、ここがまずスタートラインだと考えています。レコーディングをしていても、昔のアナログ機器時代はテイクをやり直す時にテープを戻す間は面白い話の一つでもしないと間が持たないとか、それも何回もやっているとエンジニアも含めて皆が段々シラけてきたりとか。(笑)パンチインの操作もエンジニアが神業のようなことをよくしていましたけど、今は自分一人でサックスを吹きながらDAWを操作して簡単に録音ができてしまう。こういった点ではデジタルの恩恵はあってストレスは確かに減ったけれども、基本の音の部分の大切さがないがしろにされてきた感じも少なからずありました。やっぱりデジタルになろうとオーディオと作品は切り離せないので、そこに興味を持ってもらうような、ワクワク感みたいなものを作っていくのが正しいやり方だと思っています。映像作品やその業界を例に出すと、やっぱり受け取る側の人達とも成長していて、例えば4Kのコンテンツが出たら皆が早く観てみたいと思ったり、そういうワクワク感が提供されていると思います。音も、これからそこを持ち直していかないとつまらない話になってしまうのでは?せっかくハイレゾが一般にも広がって聴けるようになってきているので、それが当たり前のように、僕らが作った音楽がそのまま、想いが伝わるような形で、圧縮なんかされないで手元に届けられる。それを聴いて「気持ちがいい」「全然違う、やっぱりこれなんだ」と思ってもらいたいですね。
今回の音源を聴くリスナーの方へ、コメントをお願いします。
伊東:演奏する環境によって音は変わります。同じ曲でも、スタジオとチキンジョージという場所では違って、それぞれの「におい」のようなものがあります。ハイレゾだとそれが嗅ぎ分けられると思います。会場に来られなかった人も来てくれた人も、家で聴き返してチキンジョージにいるような気持ちになる、そういうものが素敵だなと感じています。是非楽しんで聴いて頂ければと思います。
間瀬場 健治
1983年 赤井電機(株)入社。
1986年より同社電子楽器事業部にてサンプラー、MPCシリーズ、EWI等のマーケティングおよびアーチスリレーション担当。
1999年 AKAI professional M.I.(株)マーケティング統括ジェネラルマネージャー。
2004年~ CGE株式会社(チキンジョージ・エンターテインメント)代表。 同社レーベルのみならずメジャーレーベルのレコーディング・ディレクターやラジオDJ、イベント司会等活動は多岐に渡る。
CGE株式会社:http://chicken-george.com/
ライブハウス チキンジョージ:http://www.chicken-george.co.jp/
正木 毅
1982年 坪田電機(株)入社 PA事業部所属。
1985年 サウンドR(株)入社 PA事業部所属、神戸チキンジョージ音響顧問。Sparks Go Go、大村憲司、村上Ponta秀一BANDハウスエンジニア等。
1998年~ 有限会社フィリーズ設立/代表取締役社長角松敏生ライブハウスツアーハウスエンジニア、1999年以降のGargoyleの全CDレコーディングエンジニアコブクロのインディーズCDレコーディングエンジニア、Gargoyle、T-SQUARE等のハウスエンジニアを担当する。
伊東 たけし
1954年3月15日生まれ。福岡県出身。
大学在学中よりソロ・サックス・プレイヤーとして活動する傍ら、学生ビッグバンドに加入し、コンサート・マスターを務める。数々のコンテストに参加し、多くの賞を獲得。1977年にTHE SQUARE(現T-SQUARE)に加入、1978年にプロデビューを飾る。以来、バンドのフロントマンとして活躍。1984年には「サントリーホワイト」のCMにスクェアの曲が起用され、伊東本人もヴィジュアル・キャラクターとしてCM出演。バンドの人気を決定的なものにする。
スタイリッシュな一面は数々のファッション誌でも取り上げられる。プライベートでもスポーツを楽しみ、テニス、スキーはプロ級の腕前。オールシーズン・アウトドア派ミュージシャンである。
ソロ・プレイヤーとしても国内外のアーティストと交流を深め、伊東特有の力強く透明感溢れるサックスの音色は、今や国際的なレベルで認められている。2007年12月にリリースしたソロ最新作「Mellow Madness」では自身の音楽的なルーツでもある”ソウル・ミュージック”への熱い想いを集約。スティービーワンダー、ライオネルリッチー、スタイリスティックスをはじめとするブラックミュージックを代表するアーティストの楽曲を中心にセレクトしたSmooth Jazzアルバムとなった。
2008年2月からは、マクドナルド プレミアムローストコーヒーのキャラクターとしてもCM出演し、5月からのプレミアムローストアイスコーヒーキャンペーンでは、引き続きCMにも出演すると共に、自ら作曲したT-SQUAREの新作アルバム「Wonderful Days」収録の『Islet Beauty』がタイアップ楽曲となる。