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原 摩利彦さん:DR-100MKIIIインタビュー

音楽家、作曲家として活躍されている原 摩利彦さんはご自身の作曲活動や舞台での音響作品の創作にリニアPCMレコーダーDR-100MKIIIをご愛用頂いております。
そんな原さんにDR-100MKIIIの使用感とフィールドレコーディングを通じた創作活動についてお話を伺いました。

撮影:本浪隆弘
インタビュー日時:2018年9月4日

DR-100MKIIIをご使用いただいたご感想をお聞かせ下さい。

原さん(以下敬称略):文句のつけどころがないです!XLRコネクタがあるのが信頼できる感じがあります。ハードシンセとかをDR-100MKIIIで直接録音してみたいです。コンピューターでやると録音とかも横軸ベースの感覚になってしまうのですけど、あんまりそればっかりをしていると、変に時間で把握するようなタイプになっちゃうので、横軸ではなくて、直感的と言うか、即興演奏に近い録音のときは、こういうレコーダーの方がいいなと思っています。

今の音楽の作り方は、DAWを使って録音するのが主流なので、単体のレコーダーで録音する方は少ないと思いますが、記録として単体ですぐ録音出来るレコーダーはすごく重宝するという話もよく聞きます。外部入力から別のマイクやシンセサイザーなどの音素材を録音するのも面白いと思います。

原:元々フィールドレコーディングはしていたのですけど、レコーダーを製作に使うようになったのは、イギリスの作曲家のサイモン・フィッシャーターナーの影響です。2012年にダムタイプの高谷史郎さんとパフォーマンス作品を作ることになって、その時のメインコンポーザーがサイモン。

彼がレコーダーを使って、劇場の中でパフォーマーとか劇場の音とか、みんなで出した音を録音して、音を構築していくっていうスタイルを目の当たりにしました。それ以降、「ただ野外で自然の音を録ってきて、音楽に合わせて雰囲気を出す」みたいなスタイルから、みんなが集まって新しいもの作るっていう時に、集中してより深く関わり合った作品を作るっていうスタイルを学んだんです。

常にレコーダーを持ち歩き、必要な音があったらすぐに録って、それを使ってSEを作っています。

レコーダーはクリエーションには絶対に必要なツールなんですね。レコーダーを使うことが今の私のスタイルの流れです。 レコーダーの重たさがけっこう大事なんですよ。パソコンでも何でも軽くなるのは大歓迎なんですけど、自分はミニマリストじゃないので、ある程度の重さみたいなのがあると「やっている感」があると言うか。DR-100MKIIIのノブとか、かっこいいじゃないですか。この感じ。やはり良いですね。

どういったフォーマットで録音されることが多いですか?

原:96kHz/24bitか48kHz/24bitですね。腰を据えて「録るぞ」って時は96kHz/24bitです。ラフにどんどん録りたい時は48kHz/24bitで録音しています。
先日、自分のピアノコンサートをしたときに通しでリハーサルをやったんですけど、その時に「どんな聴こえ方かな」と確認したくて、客席の後ろの方にDR-100MKIIIを置いて録音しました。
その時は、通しで1時間ほどあったのでMP3で録りました。
リハーサル後の夜に、録音を聴き直して、翌日の本番に備えられたので、すごく助かりました。MP3でも良い音でした。

録音した音がちゃんと録れているかをすぐ確認したいという要望は多いですね。そういうこともあり、スピーカーを付けています。

原:僕はイヤホンとかヘッドホンでモニターしながら録音するのがあんまり好きじゃないんです。
ちょっと格好つけた言い方をすると、本当に録音しているときに、例えば野外だったら『その音を自分も集中して聴いてる』その時間が一番大事で、レコーダーは一緒にいるパートナーみたいな感じ。
録音したその音は、後でパートナーと話し合うみたいな感じで確認するんですけど、録音をしている時にイヤホンをしちゃうと、その周りの音とかも聴こえなくなっちゃうし。
そうではなくて、「自分は自分でその場にいて、レコーダーはレコーダー」っていう感じが良くて。ラフな所もありますけど、それが大事かな。
例えば、旅行から帰ってきて、その後に録音した音源を聞いた時に、イヤホンでモニターをせずに録音した時の方が、その録音した時の空間がパッと広がるような気がするんです。
僕はアーカイブとして「水の音をきっちり録る」とか、かっちりしたフィールドレコーディングをするのではなく、「なんか音楽にも使いたいし、思い出にもしたいし」みたいな、感じでフィールドレコーディングをしていますね。

フィールドレコーディングをされる際に、周りを意識しながら、面白そうな音を探されたりするのですか?

原:そうですね。まあ探すというか、もう回しっぱなしにします。
それで録りたい音が鳴った時に、レコーダーを出すともう鳴りやんでいる事ってよくあるんですよ。
それは本当にね、自分でもおかしいんですけど、良い音だなと思って、録るかどうしようかって一瞬悩むんですね。それで、音の場所へ行くと、もうその音は終わってたりとか。雷が鳴ってて録ろうと思ったけど、行った時はもう雷は鳴らず、みたいなのとかもありますから。
まあ、それはそれで面白いんですけどね(笑)

やはり音って瞬間的なものだったりもしますから、やはり録りっぱなしというのが一番安心できる方法かなと思います。

原:そうですね。音が割れる、割れないというのも、割れてたら割れてたでいいかなっていう気はしてます。
録った音の使い方がいくつかあるので、 SE録りとかそういう時にはやっぱりきっちりしますし、素材として使うときは意識するんですけど、何というか、自分は気にせずに、こうパーッと録っていって、後で面白い瞬間があったら使うという使い方だったら、割とラフな感じであっても絶対に面白いですし。

原さんは、海外の様々な場所へも訪問されていますが、思い出に残るフィールドレコーディングはありますか?

原:ありました!
ニースに行った時のことなんですけど、ニースの海の音、波の音がよかったです。ニースの海は石浜なんですよ。
それがすごく良いんですよね。レコーダーは浜辺において録りっぱなしにして泳ぎにいったりしてました。引き潮の引くときの音が良いんですよね。

フランスのルアーブルっていうところでも石浜があって、そこで何年か前に録ったんですけど、そっちもすごく良い音が録れたんです。波で濡れそうなぐらいギリギリのところにレコーダーを置いて録音したり、波から遠くに置いたりとか、色々トライしながらやりましたね。

海外に行かれたときに、「日本になくて海外にある音」、あるいはその逆で「海外になくて日本にある音」というのも、ありますか?また、それを意図的に録りに行きたいとか。

原:海外にある教会の鐘の音は日本と全然違いますよね。あと海外の鳥の鳴き声がけっこう面白いなと思います。

バルセロナに行ったときは、ものすごい数の野生のインコらしき鳥がいて、うるさかったです(笑)。あと去年、台湾に行った時に鳥屋さんが多くて、そこのバサバサっていう音を録音しましたね。ちょっと恐ろしかったですけど。

ギリシャは必ず鳥が鳴いてるっていうのとか、あとイタリアのシチリアのパレルモに行ったときも、海鳥が鳴いてて、感傷的になったり。どこに行っても鳥の鳴き声は印象に残りますね。

「この音は絶対に録る」というのはありますか?鳥の鳴き声はどこでも行った先で録るようにしているなど。

原:あの、これは作品作りの拘りなんですけど、ひとつの拠り所として、実際にそこの音っていうのがあります。
例えば鳥にしろ波の音にしろ、どこでも使えるライブラリーの音ってあるじゃないですか、市販で。あれも便利ですし、あえてそれを使うこともあるんですけど、そうではなくて、ブラジルの海の音とか、実際に自分が行って録ったって強みみたいなのはあると思うので、自分が行けるっていうことは、それを幸福として捉えて、必ずその土地の音は何か録るようにしています。

ただ、反対に、3年ぐらい前に東北をテーマにした、月山とか、あの辺の話をテーマにした映像作品用に、風の音とかを録りに行ったんですけど、そこの地元のお寿司屋さんで隣の人に「音を録りに来てる。」って話をしたら、「ここの風の音と他の音とは違うのか?」みたいなことをパッと聞かれたときに、ちょっと答えに詰まって。いやもちろん音は違うんですけど、お酒とかと違って「利き風」はできないわけじゃないですか。
その時に、自分は常日頃フィールドレコーディングをしてますし、「ここで録った音の大事さ」を分かっているつもりですけど、そうじゃなくて、「風の音はどこでも同じじゃない?」っていう人達にどういう風に説明したらいいのかなってことは、考えないといけないなって感じました。

「自分のフィールドに来て下さい、分かるでしょ」になるのではなく、これから音楽を作っていく中で、例えばここでこの地域の音を使って、というときに、あからさまに「ここの音使いました」じゃなくて、より自然な感じで、伝わればいいなとは思ってますね。

どこの土地なのか、そこへ行った自分なら分かりますが、それを人に伝えるのは難しいなと思いますね。

原:そうですね。だから、一言を添えるのがいいのかはフィールドでの課題かなと…でも、それがあるから面白いんですけど。自分が「Landscape in Portrait」っていうCDを出したときに、表面はイタリアかな、シチリアのエトナ山っていう山で、うち面は瀬戸内やったんですよね。
でもデザイナーさんは裏面もやっぱりヨーロッパやと思って、やっぱシチリアの海岸は違うなぁ、みたいな言い方するんですけど、これ瀬戸内です~って(笑)。でも、その繋がってる感も面白いですし、だから、なんか全然土地によって違うんだけど、その共通点もあったりっていうのが面白いんですけどね。

フィールドレコーディングをされている最中で「これ使えそうだな」とか、ひらめきなどもあったりするのですか?

原:それはやっぱりありますね。「これはあれに使えるんじゃないかな?」って思います。歩きながら録りっぱなしにすることが多いですけど、歩きながらの録音ってすごく面白いんです。
音がまるで劇のシナリオみたいな感じでストーリーができてるんです。隣の車から人の声や音がしたと思ったら、。次に違う人の声が聞こえて来て。で、また次のがたな音が合わられて。
本当に映画のシナリオみたいなものができてるってことが、ものすごく勉強になります。

面白いですね。例えば私がそれを聞いたら「原さんを疑似体験している」みたいな感覚になれるということですね。面白いですね。

原:そんな感じですね。それがすごく面白いし、ハンディレコーダーでのフィールドレコーディングならではですね!

最後に「フィールドレコーディングをしてみたい、挑戦してみたい」という方へメッセージをいただけますでしょうか。

原:やはり録音が、もっと身近になったらいいなと思うんですね。写真を撮るように身近になってほしいなって気持ちはあります。
録った音を素材としてそのまま使う話をしてきましたけど、ピッチダウンするだけでも思ってもみない良い音が出てくることもあったりして、ちょっと手を加えるだけで全然変わります。
フィールドレコーディングをして、「いいな」と思うのは一次判断だと思うんですね。
それを今度はコンピューターで編集して二次判断すると、ものすごく新しい世界がある。芝居の音楽なんかで言葉のやりとりの時に、音楽ではない何かを入れるって時に、海の波の音をすごくピッチダウンした音をかすかに入れることで、その、長い台詞のところも保てるし、でもクサくならないし、っていう。
ほんとにめっちゃ楽しいんですよね(笑)

どうもありがとうございました。

 

プロフィール

原 摩利彦
音楽家|作曲家|サウンドスケープ・アーティスト

音風景から立ち上がる質感/静謐を軸に、ピアノを使用したポスト・クラシカルから音響的なサウンド・スケープまで、舞台・ファインアート・映画など、さまざまな媒体形式で制作活動を行なっている。ソロ・アーティストとして、《Landscape in Portrait》(2017)などのアルバムを全世界でリリースし、ポストクラシカル音楽における位置を確立。コラボレーション室内楽曲《Night-filled Mountains》(京都芸術センター)サウンドインスタレーション《Copyright #1 : Showcase》(芦屋市立美術博物館)を発表し、「サウンドスケープ・アート」の新たな地平を切り拓き注目されている。

Webサイト:
MARIHIKO HARA STUDIO
http://marihikohara.com/

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