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オーディオ&ヴィジュアル評論家・小原由夫さん 「時間を越えて、思い出を共有できるのがデジタルアーカイブの醍醐味」

オーディオ&ヴィジュアル評論家として数々の媒体で執筆され、広く深い知識と的確な分析で多くの支持を集める小原由夫さんに、最近ご導入頂いたDA-3000を活用したアナログレコード等のデジタルアーカイブについてインタビューを行いました。インタビュー当日は小原さんのご自宅にあるオーディオルームにお邪魔して、実際にティアックのターンテーブルTN-570で再生したアナログレコードをステレオマスターレコーダーのTASCAM DA-3000にDSDフォーマットで録音し、試聴して頂きました。

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ティアック:今日はアナログレコードをDSDフォーマットでデジタルアーカイブされるということで、実際の作業を見せて頂きながらお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

小原さん(以下敬称略):よろしくお願いします。早速、接続から行ってみましょう。今回はTN-570のアナログライン出力からDA-3000のアナログ入力にRCAケーブルで繋ぎます。音源は、ピーター・ガブリエルのアルバムから、1~2曲録音してみましょうか。DA-3000の設定は念のため一通り見て頂きたいのですが・・・メディアはSDカード、ファイルフォーマットはDSD5.6MHzで、入力ソースはRCAアンバランスなので“UNBALANCE”を選択しています。他には何か見るべき項目はありますか?

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ティアック:基本的には以上の設定が済めば、録音の準備がほぼ整ったと言ってよいと思います。後は、録音前に念のため一度ターンテーブルを回して再生して頂き、入力されているレベルが適正かどうか確かめて頂くとより確実です。

PhotoDA-3000のメニューにある“Input Volume”画面では、どのくらいのレベルで音声信号が入力されているのかが数値で表示されますので、レベルメーターと合わせて、その曲の1番音量の大きな部分を数秒間監視して、歪んでしまわないようにInput Volumeで値を調節します。今回は” Volume 0.0dB”(調整無し・デフォルト値)ですが曲中の一番音量が大きい部分でも歪まずに入力できていますので、大丈夫そうですね。

小原: ではいよいよ、録音して聴いてみましょう。

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DA-3000を録音スタートしてからTN-570も再生をスタートし、しばし試聴タイム

ティアック:一同すっかり聴き入ってしまいました。さて、アナログレコードをデジタルアーカイブする、という作業をしている訳ですが、そのメリットはどこにあるとお考えですか?

小原:アナログレコードだけではなくテープメディアもそうなんですが、それらは物理的に有限のものであって、単純に再生すれば再生するほどやはり劣化していってしまう。そういった意味ではデジタルデータ自体は劣化しませんよね。そもそも、一番の目的としてアナログの音源が傷まないうちに保存しておきたい、と考えてDA-3000の導入に至っています。

USBオーディオインターフェースなどを使ってパソコン上でデータ化する方法もありますが、結局またハードディスクなり他のメディアに移さなければならない。その点DA-3000はSDカードに直接書き込むことができて、なおかつ「SDカードでもこんなにいっぱい録れるんだ」と驚きました。データ量の多いPCM 192kHz/24bitやDSD5.6MHzの音源でも16GBのSDカード1枚でアルバム1~2枚なら全く問題なく十分な訳ですし、カード自体も安くなっています。そう考えたときにSDカードは非常に汎用性も高く、使い勝手が良いなと思いました。他のポータブルプレーヤーに移して外へ出たり・・ということもできますしね。

ティアック:やはりデジタルデータにすると、用途に合わせて再生できる機器の幅も拡がりますね。

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小原:それから、まだこれからどんどん作業したいんですが、アナログレコードはもちろん、昔エアチェックしたテープメディアも沢山あるんです。こういったものは、特に同世代の知り合いなんかと話をしたりしながら「共有したい」ものなんですね。「ああ、これはよく聴いたよね」とか、「この時のコンサートはこうだった」とか。ただ、特にテープは今現在そのまま渡したところでなかなか聴ける人なんていないんです!(笑)めっきり減ってしまいました。なので、やっぱりデータ化して渡さないといけないのですが、SDカードだったり、そもそもデータになっていたりすればそのままメールで送ることもできる訳で、そこから初めて「この公演、一緒に行ったよね」といった思い出も共有できる。時間を越えてそんなこともできるのが、デジタルアーカイブの醍醐味の一つだと思っています。

ティアック:様々なメディアのアーカイブにお使い頂いていますが、DA-3000をお使い頂く中で気に入って頂けたポイントは何ですか?

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小原:操作がロジカルに考えられていて、分かりやすいという点です。基本的にはすごく「入りやすい」機械だと思います。メニューボタンとエンコーダーの操作だけで設定が済むし、使い勝手が非常に分かりやすく気に入った部分ですね。民生機器に慣れている身からすると、やはり業務用機器ならではの所作というものはどこかしらあるのではと思って身構えていたのですが、ディスプレイも必要な情報がきちんと載っているけどスッキリしているし、メニュー構成もシンプルですんなり入っていけると思います。

ティアック:肝心の音質に関してはいかがでしょうか。

小原: よく民生機器でDSDに対応しているDAコンバーターなどで、DoP方式のものですと滑らかになりすぎてちょっとアタックが弱くなる、丸くなってなよなよとしてしまう印象を持つものがあるんですが、DA-3000だとそれが無い。例えばロックをDSDで録ってみても、「あ、これはいいな」と感じましたね。あくまでもトランスペアレントと言うか、元の曲が持つアタック感だったりソリッドな感じも本当に「そのまま」という印象です。

ティアック:DA-3000に関してはマスターレコーダー、まさに「録音機」という位置付けなので、実直に「入力された音をそのまま録る」というコンセプトのモデルです。

小原: やはり「業務用機」という点はそういったところにもあるんですね。そう言う意味では実に信頼できる機械だと思います。レコーダーとして入力された音をそのまま録っているという潔さが音にも現れていて、とにかく「生成り」の音という感じがします。
逆に言えば、DAコンバーターでの色付けだったり、何かユニークなキャラクターを求めている場合は、もしかすると選ぶべきはDA-3000ではないのかもしれません。ただ、レコーダーとして生成りのものが録れる、それだけの器があって、他の機器と組み合わせたときにそのキャラクターをそのまま引き出せるという意味では使い出があると思います。 先ほども挙げたように、民生機だとどうしてもチップの制限があったりするのか、DoP方式になってしまったりして、そうすると「なんだか音が丸くなってしまった」とか「エッジが無いなぁ」と感じてしまうこともあったのですが、DA-3000はDSDで録ってもエッジやアタックはそのまま出てくる。もともとロックをDSDで録ってみるなんてあまり考えていなかったんですが、今日実際に録音してみたとおりピーター・ガブリエルの音源をDSDで録音しても、やはり良いですね。ドラムのマヌ・カッチェのカッコいいプレイがそのまま聴こえるし、いつもリファレンスにしているスティーリー・ダンの音源もDA-3000を使ってDSDで録ってみた際にはドラムのジェフ・ポーカロのいつものカッコよさがそのままちゃんと出ていて、すごいと思いました。これまでの経験上、こういったジャンル、特にハードロックやアタックの強いフュージョンはDSDよりもPCMの方が合っていると感じていましたが、DA-3000ではその感覚がある意味覆されました。もともとの音楽をそのままトランスファーしてくれている、と感じましたね。

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ティアック:今日の再生機、ターンテーブルのTN-570はいかがでしたでしょうか?

小原:今日はレコーダーにDA-3000を使いましたが、TN-570単体でもUSB経由でパソコンに録音することも可能な訳で、手軽さなども含めて完成度の高い製品だなと使うたびに思います。下位モデルのTN-350に比べるとある意味マニアックな点もありますよね、例えばプラッターも違いますし。

ティアック:そのプラッターに関しては非常にこだわりがありまして、回転速度を検出して自動でモーターの回転にフィードバックし、回転数を制御する仕組みを採用しています。回転精度はよりハイエンド向けのダイレクトドライブ方式に匹敵する0.05%になっている点は自慢ですね。

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小原:確かにワウフラッターには強くなりましたね。あと、ポテンシャルが高いと感じたのはカートリッジの違いがきちんと出るという点です。この価格帯のエントリー機だと無いものがあったりするのですが、アームの高さ調整がしっかりできるのも良い点だと思いました。

ティアック:ターンテーブルは各部分でそうした調整やカスタマイズが可能ですが、TN-570はできる部分はフレキシブルに、逆に手を入れられない部分はしっかり造る、という設計思想があります。例えばフット部分は取り外しもできますが、母体となる筐体は異なる素材の2層構造でハウリングマージンを高めるなど、全体にこだわりがちりばめられています。

小原:確かに、きちんとフットも高さ調整可能ですし、取り外しも可能なんですね。これは徹底的にチューンナップしたら面白そうです。電源、インシュレーター、カートリッジ・・・考えただけで色々要素がありますし、これは楽しくなると思います。

ティアック:是非、今後もご活用ください。ありがとうございました。

プロフィール

小原 由夫さん

小原 由夫さん

1964年、東京生まれ。理工系大学卒業後、測定器エンジニア、雑誌編集者を経て、92年よりオーディオ&ヴィジュアル評論家として独立。自宅には30帖の視聴室に200インチのスクリーンを設置。サラウンド再生を実践する一方で、6000枚以上のレコードを所持し、超弩級プレーヤーでアナログオーディオ再生にもこだわる。また、ハイレゾ音源再生にも積極的に取り組んでいる。主な執筆雑誌は、「HiVi」「Digi-Fi」「管球王国」「ヘッドフォン王国」「アナログ音盤」(以上ステレオサウンド)、「ホームシアター・ファイル」「Analog」(以上、音元出版)、「グッズプレス」(徳間書店)、「CDジャーナル」(音楽出版社)など。衛星デジタルラジオ/Musicbirdにて、「小原由夫のレコーディングエンジニア列伝」を毎週土曜日・午前9時と午後8時に好評放送中。

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