壮大な合戦シーンや多人数でのアクション撮影の現場で、録音技師・根本飛鳥氏が選んだ録音機材の1つが、TASCAMのピンマイクレコーダー『DR-10L Pro』でした。ワイヤレスラべリアマイクが主流となる現場で、なぜ『DR-10L Pro』が選ばれたのか。その狙いや運用方法をひも解きます。
2025年11月13日よりNetflixで配信されている超大作『イクサガミ』は、明治初期を舞台にした侍アクションドラマです。脚本は今村翔吾氏、監督は『新聞記者』『余命10年』で高い評価を受け、『正体』など話題作を手掛けた藤井道人氏。主演・岡田准一氏とのタッグによって制作された、スケールと熱量を兼ね備えた話題作です。

多人数・多アクションの収録現場で求められた“確実な音”

根本氏は、芝居場から離れた位置で全体の音声をモニタリング・管理する録音技師です。
「『イクサガミ』は大規模な合戦や大型の機材を使った複雑なアクションが多く、メインのワイヤレスだけでは到底カバーしきれない大量のサブキャストやエキストラが登場しました。10台ほどのDR-10L Proを導入し、メインのワイヤレスで賄いきれないエキストラやアクション担当のキャストに装着しました。」
メインのワイヤレスシステムは、WISYCOM MTP60を中心に12波を運用。それ以上導入すると音声チェックの工数も増えます。アクションが多い現場は撮影のテンポ感がとても大事で、1テイクごとの音声確認に時間をかけることをしたくなかったと根本氏は言います。
「現場での演者の音声をとにかく“録っておく”ことが重要でした。『DR-10L Pro』はまさにそれに適したレコーダーでした。」
選定理由:「画面でTCが確認できるピンマイクレコーダー」

導入時に重視したのは、「タイムコード入力が可能」「ラベリアマイク対応」「本体画面でTC確認ができる」ことだったと根本氏は言います。
「結果的に、有機EL画面を搭載しタイムコードの確認ができるDR-10L Pro一択になりました。」
現場でのタフさと音の実力
撮影では、爆発や落下など過酷な条件下で使用されることもあったといいます。
「飛んだり、跳ねたり、爆薬で飛ばされるようなシーンでも、一台も壊れませんでした。このサイズ感で、これだけの耐久性は正直驚きです。」
「ガンマイクでは音源との距離があったり、群衆の雄叫びの中で個々の声の芯が録れない。DR-10L Proを使えば、近接でも歪まず、輪郭を強調した迫力のある声が録れました。」と根本氏は語りました。
現場での設定と運用
本作では32bit float録音で運用したとのこと。
「導入前にテスト録音を実施して収録レベルは“LOW”設定を採用。適正な収録レベルの設定がされていれば叫び声など大きな音も問題なく録れ、編集時に必要に応じて持ち上げる運用です。」
撮影時、タイムコードはAtomosのUltraSync Oneをマスターに、UltraSync BLUEのBluethooth接続によりDR-10L Proとジャムシンクして運用したと根本氏は説明します。
「長時間テストしてもジャムシンクのズレは気になりませんでした。撮影時に使用したBluetoothによるTC同期は、Sync時に不安定なケースもありましたが、後日実装された有線によるLTCジャムシンクは、ケーブルを抜き差しするだけでTC同期が可能なため、設定作業は非常にスムーズになり、仕込みの時短につながりました。」

その場の音を記録し編集時に取捨選択するという考え方
「今回の規模でのアクション現場では、すべての役者の声をワイヤレスで録りきるのは不可能でした。しかし、仕上げ時に役者の音声がない、という状況を避けたかった。DR-10L Proで録っておけば、“使う・使わない”を後で選べるんです。」
現場の熱量をそのまま残すために、アフレコではなく現場の生音を使用していけるように収録しかったといいます。
「勢いを残したいという監督や俳優の意図に応えるためにも、DR-10L Proは強力なサポートになりました。」
壊れないが重要。DR-10L Proの信頼性について。
「このレベルの機材になると微細な音響特性の優劣の差は、正直そこまで感じません。重要なのは“録れていること、壊れないこと”。TASCAMはその点で非常に信頼できます。」と根本氏は語りました。
まとめ
『DR-10L Pro』は、過酷な撮影現場でも安定して動作し、LTCジャムシンクによるタイムコード連携も確実でスムーズです。本体ディスプレーでステータスが確認できるほか、適切なゲイン設定を行えば安心して音声を収録できます。
根本氏が語る通り、DR-10L Proは“小型で信頼できるピンマイクレコーダー”として現場の自由度を大きく広げました。
製品情報
作品情報

作品名:Netflixシリーズ『イクサガミ』
配信開始:2025年11月13日
オフィシャルページ:
https://www.netflix.com/jp/title/81607397
プロフィール

根本飛鳥
録音技師
幼少期より映画好きだった父の影響で数多くの映画を見ながら育ち、映画監督を志す。
多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科に入学後、自主映画制作に没頭、ほどなくして低予算商業、Vシネマの現場で演出部として活動を始めるが、19歳の時に録音部へ転向。以後、録音助手としてインディーズ映画から商業大作まで幅広く活動。その傍らで多くの若手監督の作品に録音技師として参加し今日に至る。
現在も藤井道人、今泉力哉、白石晃士などの作品を筆頭に多くの監督と作品を作り続けている。
オフィシャルHP :https://noiz-noiz.jimdofree.com/